第82話 見積もりの甘さ
「クーロン・ベイ」内での派閥争い、それによって発生した暗闘は終わった。
革新派の勝利によって。
保守派に与していた衛兵達も一斉に降った。保守派が権力を有していてはじめて、彼らの安全と出世は保証されるのだ。忠誠心を捧げている場合ではない。
もちろん、自分達が権力を失う事が認められないのか――あるいは想像できないのか、悪あがきする者達もいる。
だが、すでにそういった面々は少数派なのだ。
ごく平和裏に彼らは力を失ったのである。そして「クーロン・ベイ」を取り囲んでいた農民達も市内に招き入れられた。もちろんその時には戦うべき相手もいない。
ただ都市に遊びに来ただけ、とも言い換えることも出来る。
しか、大人しく、というわけには行かなかった。
何しろ彼らを待ち受けていたのは、新酒の大盤振る舞いなのだから――
~・~
「こんなこともあろうかと、サービスを含めた優先券を用意してあります。これでなんとかするしかないでしょう」
しかし新酒の評判の良さが想定以上だったのである。
計算ではかなり余裕があるはずであったのに、底が見え始めたというのだ。
そこでパシャは将来の顧客に不満を抱かせないためのアイデアとして、優先引換券を用意したと言い出したのだが……
「それは……まぁ、口約束じゃないだけ良いけど、結局タダじゃないんでしょ? それで収まるかな?」
と、ミオは率直に疑問点を口にした。
すでに祭り上げられた状態ではない。無茶苦茶になる前に、しっかりと巨船の「首」を畳んで二人を降ろしたのは、ダスティにとって今日最後の良い仕事と言えるだろう。
そう。その他はおしなべて無茶苦茶である。
「クーロン・ベイ」の港は酔い潰れた者達がまさに死屍累々と積み重なり、動ける者は、それでもなお新酒を求めて千鳥足で「クーロン・ベイ」を徘徊している。
この街でドラスティックな革命が成し遂げられたとは考えられない状態だ。
……いや、相応しいと言えるのかもしれないが。
「収まらなかったら、俺がなんとかするよ! なぁに、皆で一緒になって海に飛び込めば済む話だ! アハハハハハ!」
すでに南の巨船と合流済みのデュークが良い気分になって落城寸前であった。
もちろんデボンは新酒に頼ることなく、自然の摂理に従ってすでに深い眠りの底についている事は言うまでもない。
「……仕方ないですね。マクミランさんに助けて貰いましょう。新酒をなんとか持ってきてくれば良いんですけど? これ『クーロン・ベイ』にツケても良いんですよね?」
「そうなるって話は聞いてるけど。……私としては恥ずかしい目に遭った分も請求したいぐらい」
そう言いながら、ミオはパシャが通信機を通してマクミランとやり取りするのを眺めている。
何かおかしい――そんな思いがミオの脳裏をよぎったが、結局は大騒ぎを続ける「クーロン・ベイ」の喧噪に紛れてしまった。
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