第84話 大人は忍び足で
結局、誰にも見られないように二人が語り合おうとすれば、それはデュークが隠棲していた海辺の一軒家を使うしかない。
そしてマクミランは職権乱用して冷えた新酒を屋台から樽ごと強奪する。
ポッド・チキンの焼き物については仕込み済みの鶏肉を一軒家で適当に焼こうかと考えていたマクミランであったが、一軒家にはデュークの婚約者マリーが待ち受けていた。
こうなればマリーに焼き物を頼むしかない。
それにデュークの婚約者という立場ではなくて、参事会の一員として考えれば、むしろ焼きながらでも良いので、聞いて欲しくもあったマクミランであった。
何しろ自分でもよくわかっていない違和感についてである。
マリーの第三者的な意見が必要になるかも知れない。
だが、話の始めとしてはこうならざるを得ないだろう。
「いよいよ結婚式ですか」
「ああ、そうなると思う。今まではとにかくやる気が出なくてな。で、やる気が出てきた分は全部デボンとパシャの悪巧みにつぎ込んできた。いや、今だって……」
ジューーー!
フライパンの上のチキンが音を立てる。
エプロン姿のマリーがデュークを見つめながらニッコリと微笑んだ。
「……とまぁ、こんな次第でな。俺もイヤなわけじゃないし、近いうちにやるよ、結婚式。あんまり大袈裟にはしたくないけど」
「それはご随意に。まずはおめでとうございます」
マクミランが儀礼的に頭を下げて祝辞を述べた。
「しかし、ある程度の規模で行わないとかえって問題が出てくるかも知れません。マリーさんはさらに苦労なさるかも知れませんが……」
「今までの苦労に比べればなんと言うこともないですよ。ゴールが見えていますし」
今度は含むところ無く、マリーは微笑んだ。
「それに『クーロン・ベイ』とのいざこざも一段落しましたし。結婚式に集中出来るのなら……」
確かにあれほどの苦労はないだろう。
しかも、その「苦労」を片付けた立役者の一人が婚約者デュークなのである。マリーの結婚式にかける士気は上昇中なのである。
「そういう話なら、あんたはどうなんだい?」
デュークが突然に話を変えようとした。さすがに高名な戦術家と言うべきか、矛先をマクミランに向けて。
「私ですか? どう、とは?」
「俺も『クーロン・ベイ』で聞きかじっただけなんだけど、妖精種族の店長さん。あの見世物になった人と良い感じらしいじゃないか」
説明の仕方からは悪意しか感じないが、勘違いだけはしないだろう。
当然、イブとの関係についてだ。
マクミランは表情を変えずに首を傾げた。
「イブさんと私はそういう関係ではありませんよ。それに今はライバル店に私は勤めているわけですし」
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