第60話 戦いは数

 ミオがそう告げたとき、真っ先に反応したのはウォルフだった。

 内務担当であるだけに「ポッド・ゴッド」の購買力を、具体的に把握している。


「あ~、それはそうかもしれない。『ポッド・ゴッド』だけ売っても早々に全体に回ってしまう。元々人口は多くないしな。かと言って観光客に売っても限界だし、観光客は結局『クーロン・ベイ』から来る人がほとんどだ」


 ウォルフの指摘に、先ほどまで激していたアイザックがスンと落ち着きを取り戻した。


「それは……確かにマズい。それだと『クーロン・ベイ』の金がこっちに流れてくるのに変わりは無い」

「ええ、ですから『クーロン・ベイ』で新酒を売るのは絶対だと」


 参事会が同じ結論になった事を内心喜びながら、ミオは話を続けた。


「こちらに好意的な派閥の方が思う様な状態にするためには『ポッド・ゴッド』だけでは足りないと。『クーロン・ベイ』という大都市で消費してくれないと、どうにもならないと」


 ……と、パシャが主張したわけである。

 それを黙って聞いていたマリーの表情が曇る。そうしないと売れない、というだけの話では無い。

 

 これでコンゲの派閥が「クーロン・ベイ」で力を失うと……


「それはマズいねぇ~。こっちに好意的な派閥が無くなると『クーロン・ベイ』はすぐに輸出に制限をかけるよ」


 アールがマリーの不安を言葉にする。

 この場にいる全員が、そこまではすぐに理解出来た。単純な話では無くなっていると言うことも。


「『クーロン・ベイ』から大量に大麦を仕入れます。それを『ポッド・ゴッド』で加工して、再び『クーロン・ベイ』に持ち込む。その間で手数料を貰いますが、これなら実質的には『クーロン・ベイ』の都市部のお金が、周囲の農村部に分配される事になります」


 ミオはとどめとばかりに、金の流れを丁寧に説明する。


「こういったお金の流れは、こちらに好意的な派閥も喜ぶだろう――と、ウチの者が言ってます。私はそこまではわからなかったんですけど、確かにこれなら一方的に儲ける形にはならないんじゃないかと……」


 最後が頼りなくなったが、先に新酒の醸造について、その利益の独り占めをミオはいやがっている。その判断が何よりも今のミオの言葉に説得力を持たせていた。


「アイザック」


 短く、議長のウェストがアイザックの名を呼んだ。


「『ポッド・ゴッドこちら』の本気を見せるために副議長の君に頼みたい。『クーロン・ベイ』との交渉に行ってくれ。新酒の販売についてだ」


 突然の指名に驚いたアイザックだったが、すぐに頷いた。

 「ポッド・ゴッド」生き残りのための丁々発止は、まだまだ終わりそうに無い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る