第10話 ラスシャンク・グループ

 今、ダスティ達三人が床の上に正座して見上げているのは、椅子に座る妖精種族の女性だった。

 背中の蝶の羽根が妖精種族としての特徴だろう。ちなみに大きさは他の種族と変わらない。


 この女性の特徴としては、薄紫の髪を高々と結い上げている部分だ。それに金細工のアクセサリーも身に付けている。

 言ってしまえば「お姫様」のようだ。


「お話はわかりました」


 その妖精種族の女性――イブは厳かに告げた。

 だが、その言葉遣いは決して居丈高ではない。あるいは、そういったイブの物腰こそが彼女の存在感を際立たせしているのかもしれない。


 とびきりの美人で、伏せられた長いまつげに桃色の唇がヤケに艶っぽく、ダスティは彼女に面会したときから、頬を朱に染めていた。


 そんなダスティの様子を見て、メイが眦を決しているわけだが、この場で騒ぎ出すことはなかった。

 何しろ三人はイブに救助を求めて、ここを訪れているのだから。


「お三方は、それぞれ料理の技能はあるようですし、近く開店予定の店をお任せします」

「ほ、本当か?」


 ボーッとなっていたダスティが勢い込んで確認する。

 すっかり正気を取り戻していた。


 何しろこのイブの言葉で、とりあえずは危機を脱することが出来そうだからだ。

 それも、かなりあっさりと。


 思わずダスティが確認してしまうのも無理からぬ所だろう。


「えっと……何か見返りが?」


 メイが慎重に確認する。

 その視線が、イブの背後に控える二人の人物に注がれた。


 一人はイブと同じ妖精種族でミュンという名前だった。深緑の髪をした大人しい感じの女性で、イブに仕える侍女のように見える。

 実際、そういう役割なのかもしれない。


 もう一人は人間種族の男性だ。赤い髪に緑色のメッシュが入った髪色で、オールバックに髪を整えている。

 メイが特に気にしているのはこの男性だ。名前をマクミランという。


 どうにも冷たい印象を与える男性で、メイ達不良少年との相性をどう考えても、良くなるとは思えないからだ。


「お三方が抑えている家屋を提供してくださると伺いましたが」

「そ、それは……そうなん……ですけど」


 マクミランに向いていたメイの注意を、イブが声を出したことで再び引きつける形になった。再びイブに圧倒されて、思わず言葉遣いを直してしまうメイ。


「では、私共に問題はありません。お三方は――ミュン」

「かしこまりました。こちらへ」


 イブの言葉に導かれるままに、三人は立ち上がってミュンに続く。

 それを見送るイブとマクミラン。


「――イブ様。気になさることでも?」


 残される形になったマクミランが、恭しくイブに声をかける。

 何しろイブこそは「ポッド・ゴッド」に根を下ろす「ラスシャンク・グループ」の総帥なのだから。

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