第9話 正しい使い方
「……よし。こちらテーブル席に」
焼き上がったポッドチキンの焼き物を大きめの木皿に載せて、ミオはゴーレムに渡した。
それを頭の上に掲げながら、ダスティ達のテーブルへと運ぶゴーレム。背の低いゴーレム達は、この運び方がスタンダードなのだ。
「……よ、よし来たな」
「あ、兄貴……これ上手く焼けてるんじゃ……」
ダスティの様子が焦ったように見えた理由はケーンが言葉にしてしまった。
ミオが焼いたチキンは見た目も香ばしさも問題ないように思えるからだ。
「た、食べなきゃわかんないよ!」
メイが慌てて二人に活を入れた。確かに味わってみなくてはわからないことは多々ある。それに単純に火を通せば良いというものでは無い。
チキンは丹念に火との距離を調整し、何度もひっくり返さなくてはいけないのだ。
果たしてミオは、そこまで出来ているのか……
「む!」「わ!」「ぬ!」
焼き物に齧り付いた三人が一声発した後、脂汗を流し始める。
「どうだ? 十分旨いんだろ?」
「確かにスタディ親父ほどじゃあないが……」
常連客達がニヤニヤ笑いながら、三人に向けてマウントを取ってきた。
何しろ彼らがミオを鍛えたのである。ドヤ顔になるのも仕方のないところだろう。
それに確かに先代のミオの父親には及ばないかもしれないが――
「あ、兄貴! 俺達と変わらないぐらい焼けてるよ!」
「るせー!!」
ケーンがまたもや自分でとどめを刺した。反射的にダスティが言い返すが、それ以上の言葉が出てこない。
そして言葉が出てこないとなれば――
「くそ! こうなったらここで一暴れしてやる!」
「それは困ります」
ヤケになったダスティの言葉を遮ったのは、奥の厨房から出てきたパシャだった。
あまりに迫力のある三白眼を見て、ダスティさえもその場で固まってしまう。
「おまえたち。お帰りだぞ」
「オカエリオカエリ」
そんなダスティに構わず、パシャがゴーレム達に指示を出すと、五体のゴーレムが一斉に三人を持ち上げて、店外へと運んでゆく。
「お、おい、なんだよこれは?!」
「兄貴~」
「どこ触ってんのよ!」
三人はなんとか抵抗しようとしたが、それは言葉だけの抵抗に留まった。あっという間に店外に運び出されてしまう三人。
そのまま三人の声が遠ざかっていった。
「こんなこともあろうかと、こういう機能は組み込んであったのです」
「……初めて、正しく使われてる気がするわ、その言葉」
ミオが疲れたように応じるが、その顔には笑みが浮かんでいた。
「ミオさんがずっと頑張ってましたから。俺はそのサポートです。さすがに焼く技術はミオさんの努力が無ければどうしようもないですから」
「はは……まあね」
「なんだお前。気味の悪い顔だけどわかってるじゃねえか!」
虎人種族が大きく口を開けて、呵々と笑った。
それに連れて「ダイモスⅡ」の中も笑いで満ちる。
「ようし! ドンドン焼くわよ! じゃんじゃん注文してね!」
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