第8話 静寂の刻

「あ、いらっしゃ……い……」


 ミオの声が尻すぼみに小さくなってゆく。だがそれは仕方がないところだろう。何しろ問題のダスティ達が「ダイモスⅡ」に現れたのだから。


 ケーンの図体がデカいためか、最初から変装しようというつもりもなかったらしい。いっそ堂々とした態度で店内に乗り込んできたのである。


 事情を知っている常連客達からは、一斉にすがめで見られることになるわけだが、ダスティとメイはむしろそれが誇らしいようだ。


 さすがは立派に育たなかった不良少年である。そんな三人に赤いゴーレムが、なんの屈託も無しに近付いてゆく。


「ゴセキニゴアンナイシマス」

「お、おう。これが妙な機械か……ヘッ! こいつらの方がよっぽど仕事出来るんじゃねぇか!」


 さっそく挑発を始めるダスティ。そのまま肩で風を切って、ゴーレムの案内に従って三人はテーブル席に腰を下ろした。


「ゴチュウモンハ?」

「決まってるだろ? ポッドチキンの焼き物だよ! ちゃんとしたのを頼むぜ!」


 三人の嫌がらせの手口は単純なものだった。ミオの技術が未熟であるところにつけ込んで、イチャモンをつけよう。

 なんなら改めて秘伝のタレを手に入れよう。


 そんな魂胆が透けて見えるようだ。


「お前ら……」

「じつにセコいな」

「プライドはないのか」


 狐人種族に猫人種族。牛人種族。店内の常連客達が一斉に呆れたような声をあげた。


「それを言うなら、満足に焼くことも出来ないくせに店を開けてる方のプライドはどうだっていうのよ!」


 それに対してはメイが金切り声を上げた。

 こうなると常連客達からは改めて非難の声は上がらない。


 何しろミオの技術が父親に及んでいないことは明白だったからだ。

 しかし――


「……わかった。二串ずつでいいのね?」


 ミオが三人の注文を受けた。その表情に緊張が走る。当然、ミオも三人の魂胆はわかっているが、ここは引けないと覚悟を決めたのだろう。


「ヘッ! 開き直ったって、どうにもならねえもんはどうにもならねぇよ!」


 それを馬鹿にするようなダスティの声が店内に響く。ダスティはそれを合図にして、店内に騒動を起こすつもりがあったようだが……


 店内は逆に静まりかえってしまった。

 ポッドチキンを焼く作業に集中するミオの気迫に圧倒されているのだ。


 チリチリチリ……


 皮目が焼けて、炉に脂が落ちる。

 店内に食欲を誘う香りが満ちる。


 常連客達、いやダスティ達までもが固唾を飲み込んだ。

 精霊族特有の光がミオの額に浮かぶ汗を輝かせる。

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