第2話 プロット作成
学校から帰ってきたソウタは、洗面所でうがい手洗いを済ませるとすぐに自分の部屋に引きこもった。
制服から着替えることもせずに向かったのは、机の上に置いてあるノートパソコンである。
学校からの帰り道、何も考えずにひとりで自転車を漕いでいたわけだが、急に創作の神様からコンタクトがあったのだ。
湧き出てくるアイデア。これは絶対に面白い。面白くないわけがない。
ソウタは次から次へと溢れ出てくるアイデアを必死に頭の中で
さあ、書くぞ。
パソコンでテキストエディタ―を立ち上げたソウタは、頭の中からあふれ出てこようとする大量のアイデアを文字に起こしていく。
小説を書くにあたって、物語の設定(世界観、登場人物、展開)などをまとめておくものをプロットという。
基本的にソウタはプロットなどは書いてはいなかった。
思いついたものを一気に書いていくタイプなのだ。
そういった創作者も少なくはないと聞く。
しかし、このプロットを書いていないがために、設定がブレてしまったり、急に物語が行き詰ったりしてしまうということもある。
特に長編小説を書く場合は、最低限のプロットぐらいは作っておいた方がいい。
それは、以前、小説の書き方というサイトで見た情報だった。
しかし、そのサイトで見た情報をソウタはイマイチ理解できていなかった。
プロットって、なんだか難しそうだな。
そう思っただけで、相変わらず思いつきで物語を書きはじめたりしている。
だが、ソウタは知らず知らずのうちにプロットを書くようにもなってた。
設定集。そう名付けたテキストファイルがソウタのパソコンの画面に存在しているのだ。
これを書くようになったのは、以前ハマったゲームの設定集を見たことがきっかけだった。
そのゲームは壮大な冒険ファンタジーだったのだが、有名なイラストレーターが描いたキャラクター(ちょっとエロい)がふんだんに使われたもので、設定集だけでも5000円近くするものだった。
ソウタは貯めた小遣いを切り崩して、その設定集を購入した。
その設定集はソウタにとってかなりの高額出費ではあったが、本がボロボロになるぐらいに何度も読み返したりしているお気に入りの一冊となった。
そして、その設定集があったからこそ、ソウタの創作がひとつ進化したともいえるのだ。知らず知らずのうちに書いているプロット。まだメモ程度に過ぎないが、そのプロットを書いているからこそ、ソウタの描く物語は安定をみせはじめていた。
湯水のごとく湧き出してくるアイデア。ソウタはそれを急いでメモとして書き残していく。
今回、創作の神様からコンタクトがあって、思い浮かんだ物語のおおよそのあらすじは、こんな感じだ。
ある日、突然地球に現れた地球外生命体。
彼らは高度な知能を持っており、地球人を支配しようと企む。
多くの地球人は彼らの手に落ちてしまい、文明を失いかけるほどの大打撃を受けてしまう。
彼らは地球人の記憶を書き換え、自分たちの都合の良いものとしていこうとしていた。
そんな中で立ち上がった人たちがいた。
WEB小説家である。
彼らは物語の中に本当の地球人の姿を描くことで、後世の人たちに真実を伝えることを考えたのだ。
それが「異世界転生もの」であった。
異世界。それは本当の地球の姿だった。
転生者。それは書き換えられる前の記憶を持つ者のことだった。
異世界転生ものの小説はWEB小説だけに留まらず、書籍化、コミカライズ化、アニメ化、そして映画化まで。
異世界転生ものは爆発的にヒットした。
なにも知らない地球外生命体たちも、異世界転生ものの面白さにハマった。
地球人たちはその物語の真実を知っているが、地球外生命体たちは単純にエンターテインメントとしてしか見ることが出来なかった。
しかし、そんな中で異世界転生ものにメッセージが込められているということに気づいた地球外生命体がいた。
その地球外生命体は悩んだ。大好きだった異世界転生ものの中に、地球人たちが自分たちに反発するためのメッセージが込められていた。この事実を
そして、地球外生命体は決意をする。異世界転生ものに込められたメッセージに目をつむり、地球人たちに加担しようと。
そこまで一気に書いたところで、スマートフォンにメッセージアプリの通知が来ていることに気がついた。
送り主は、母だった。
『残業で遅くなります。きょうは出前か何かで夕飯を済ませてください』
メッセージは、ソウタとミズキのふたりに同時送信されており、ミズキの方は既読済みとなっている。
今夜はミズキとふたりで夕食か。
少しだけソウタの気は重くなっていた。
夕方、一階に降りていくと、そこにはすでにミズキの姿があった。
ソファーの上で膝を抱え込むようにして座り、スマートフォンを見つめている。
「なに食べる?」
ソウタの姿に気づいたミズキが言った。
「なん――――」
「何でもいいは禁止ね」
ミズキがソウタの発言に声をかぶせてくる。
「じゃあ、ハン……」
「わたしは中華がいいかな」
またしてもミズキの声がかぶさってくる。
「なに?」
「いや、中華でいいです」
「中華で、なの?」
「いや、中華がいいです」
「何にするか決めておいて」
完全にソウタはミズキに主導権を取られていた。
その日の夕飯は、近所の中華料理屋の出前となった。
ソウタはチャーハンとラーメンのセット、ミズキは天津飯を注文した。
家の中にいるのは、ソウタとミズキだけ。
普段であれば、各々が自分の部屋にいるのでそこまでは気にならないが、双子の姉とふたりっきりで同じ空間にいるということが、ソウタに妙な緊張感を与えていた。
子どもの頃はこんな緊張感を覚えたことはなかったはずだ。
「ソウちゃん、ソウちゃん、いっしょにあそぼ」
幼い頃、ミズキはソウタにべったりだった。双子ということもあって、いつも一緒であり、着ている服は大抵色違いのお揃いだった。
保育園でも、小学校でも、ふたりは仲が良かった。いつも家を一緒に出て、一緒に帰ってくる。
そんな仲良し双子のはずだった。
中学生になり、ふたりの関係は微妙に変化した。思春期ということもあり、お互いがお互いに避けるようになっていったのだ。
そのころから、ミズキはソウタのことを『ソウちゃん』と呼ばなくなり、その代わりに『小僧』と呼ぶようになった。
日常で交わす会話など、ほとんどない。必要最低限の会話。時には目すらも合わせてくれないこともある。
いつの日からか、ミズキはソウタの恐怖対象となっていっていた。
基本的にはソウタの方が悪いのだ。夜中に部屋で一人で騒いだり、部屋のドアを開けっぱなしでいやらしいサイトを見ているところをミズキに見られたり……。
玄関のチャイムが鳴り、出前が届けられた。
ちょうど、ミズキはキッチンでコップなどの用意をしていたため、ソウタが出前を受け取った。料金は立て替えておき、あとで母に請求する。
テーブルの上に届いたチャーハン、ラーメン、天津飯を並べて、食事をはじめる。
ソウタの家では食事中にテレビをつけるのはダメだと子どもの頃から教育されてきていた。そのため、ミズキとふたりっきりの食卓は、とても静かなものだった。
高校生になり、ふたりは別々の学校に通うこととなった。
はじめてふたり一緒ではなくなる瞬間でもあった。
嬉しいような寂しいような、なんだか妙な気分だったことを覚えている。
二人とも公立高校に通っているのだが、ソウタは自転車で通えるぐらい近い場所にある高校を選び、ミズキは電車で30分ほど行ったところにある高校を選んだ。
学校生活の中で、お互いがお互いを意識しないというのも初めてのことだった。
大抵は、双子であるということをクラスメイトにいじられたりするわけだが、高校は別であるため、そういったいじりすらも受けることはなかったのだ。
「ごちそうさま」
勢いよくラーメンとチャーハンを腹の中へと収めたソウタは、食器をシンクへと運んで軽くざっと洗った。
そして、先ほどの小説の続きを書くために二階の自分の部屋へと向かう。
本音を言ってしまえば、あの空間に一秒でも長くいたくはなかった。ミズキと二人っきりという状況は、いまのソウタにとっては苦痛でしか無いのだ。
下手に話しかけたりすれば、口を滑らせて余計なことを言ってしまうかもしれない。
余計なことを言えば、ミズキは怒り心頭でソウタのことを罵るだろう。
口喧嘩では勝ち目はない。だったら、最初から触れないで置くのが一番なのだ。
一段抜かしで階段をあがると、ソウタは自室に引きこもった。
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