第10話 身代わり婚約者④
秀一は、二学期から編入する甥の
仁王立ちしている賢人の頭を下げさせて、秀一も深く頭を下げる。
「ふつつかな甥ですが、よろしくお願いします」
コーチは笑ったが、中等科三年生の
「手に負えなかったら、オレに相談して」と秀一がこっそり耳打ちすると、我妻は体を硬くしたまま、生真面目にうなずいた。
(賢人、みんなと上手くやっていけるかな……)
初めて子供を学校に入れる親の気持ちだったが、秀一は部室棟に向かって走った。
向こうは向こうで、盗撮問題が発生していた。
部室棟と体育館の裏の広場に置かれたベンチに、ハルと
秀一はテーブルを挟んで向かいのベンチに腰を下ろした。
「どうだった?」
秀一の問いに怜司は首を振った。
「なかった。シャワールームにもない。マスターキー借りて、他の部室も口の固い奴らと手分けして探したが、見つからなかった」
「盗撮されてたのは、テニス部だけってことだ!」と、ハルは苛立っている。
「先生に言う?」
秀一の言葉にハルが怒鳴った。
「おまえは、ガキか!」
(……ハル、また怒ってる……)
秀一はウンザリした。
テーブルに突っ伏したら、スマホがなった。
開いたら、絵文字多用の長文。読む気がしなくなり、すぐに閉じた。
「一ノ瀬からか」とハル。
(なんで分かるんだよ。超能力者か?)
「えっ? あの一ノ瀬?」と怜司。
「こいつ、付き合ってるらしいぞ……あっ、ごめん」
ハルが謝ったので、秀一は顔を上げた。
「マジ? やったじゃん秀一! あの子、めっちゃ可愛いよな」
なぜか嬉しそうな怜司と目が合う。
(可愛いかどうかより、上手いかどうかだろ)
ミックスは嫌いだ。
ダブルスは実力の劣る相手を狙うのが常套だが、公式戦でもない試合で、女子を執拗に攻撃すると卑怯者呼ばわりされる。
足元に打ち込むつもりが、わずかな狂いで女子の体の一部に当たればマナー違反だ。動きが鈍く、よけきれない方が悪いとは言えない。
女子にミックスのペアに誘われたと、浮かれている男達の気が知れなかった。
「ごめん……内緒だったな」ハルは、済まなそうな顔をする。「こいつ、内緒にしたいらしいから、怜ちゃんもここだけの話にして」と声を小さくした。
「別にいいよ(校内試合のエントリーなんて、秘密じゃないよ)」と秀一は起き上がった。「それよりどうするの? 顧問の先生に言わないの?」
「学校なんて、当てになるかよ」ハルは忌々しげに吐き捨てた。「倉庫で人が殺されても、うやむやになってるじゃんか。マスコミを押さえて、ニュースにもならないんだぞ。カメラ仕掛けた奴が、生徒だろうが教師だろうが、処分されたらおしまい。何もなかったみたいにされるんだ」
「ハルはどうしたいんだ」と怜司。
「犯人を見つけて、ボコす。それから警察に突き出す」
暴力は反対だが自分たちの手で犯人を見つけることには、怜司も賛成した。
「こっちも隠しカメラを仕掛けて、誰が回収に来るか撮影しよう」
怜司の案にハルと秀一は同意した。
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