第2話 舞台恐怖症

先ほど、長い長い口上が、舞台上で終わった。


 ニューヨークの雰囲気を出すための演出なんだろうが、しょせん、こんなものか。


 口上を終えた老人が、上手袖、つまり、観客席から見て右側に向かって呼びかける。


 ハルオさん、とアキヒトさん、と呼ばれた人たちが現れるのかと思いきや。


 怪しげな声が、下手側、つまり、客席から見て左側に設置された、要するに演出効果を狙ったものらしい、スピーカーから鳴り響く。


 スピーカー。


 音を増幅させるこの装置は、この劇場のわかりやすい位置に置かれ、恐怖をかき立てていた。


 わたしは、その声を、こう聞いた。


 その劇場の地下には、埋まっていると言う。


 財宝が。


 お宝が。


 つまり、あの地下には大量のお宝が眠っている。


 あそこで得た品を売りさばけば、そう、まるで、アンドリュー・ロイド・ウェバー版のミュージカル冒頭がごとく、始まるのだと言う。


 オークション、つまり、競売が。


 原作の小説には、そんな場面などない。


 作られたのだ。


 きっと。


 さて。


 この劇場は、2023年4月18日、その役目を終えた。

 

 ミュージカルオペラ座の怪人を上演する劇場としての。


 ここからお送りするのは、この劇場地下で起きたできごと。


 くれぐれも、他言無用、外部には話さないでください。


 この劇場地下で起きたことを話せば、かならず、あなたがたにわざわいが起こるでしょう。


 特に、座席番号が五番の方はご注意を。


 では。

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