番外編2.培養スマッシュパーティー

 「みんな、今日はユースケのために集まってくれてありがとー!じゃ、ユースケの大会での検討と、我々ニムロディアスの益々の発展を願い、乾杯!」

 乾杯という声が、あちらこちらから響いた。

 この日、15人ほどの人がエルさんのバーに集まり、ささやかながら祝賀会が執り行われた。

 「おいボウズ!出れてよかったな!けど出るからにはよお!最低でもベスト8には入れよな!」

 相変わらず、ジークはうるさい。

 「斉藤祐介さん!私は信じてましたよ、あなたがトーナメントに出るって!」

 この記者さんも、ちょびっとうるさい。

 

 他に来てるメンツとしては、バーの主であるエルさんに、あとハルトやアスト、ニノ、アミーにナスターシャなんかが来てくれている。

 

 勿論、セレーナもいる。さっき、乾杯の音頭をとったのは、他ならぬ彼女だ。しかし…


 「ねえハルト、結局お前も出るんだろ?」

 「まあ、出れることになったけど。…でもさ、セレーナさんや」

 「何?」

 「今日はユースケの祝賀会なんだから、俺じゃなくてユースケに絡んだらいいんじゃないかい?」

 「ま、まあ、ユースケのとこは後で行くよ」

 

 なぜか、少し僕に対して距離を置いているように見える。

 …思いあたる節があんまりない。

 「…なあ、なんであの姉ちゃんはお前に対して塩対応なんだ?」

 ジュードが聞いてきた。そんなこと聞かれてもわかんない。

 「わかんない?だったら直接本人に聞けばいいじゃねえか!」

 僕も、今まで何度かセレーナに聞いてはみたが、"核心"を僕に話してくれようとはしない。ずっとはぐらかされるばかりだ。

 …まあでも、今までと違った聞き方をしてみてもいいかもしれない。

 僕は、セレーナの肩をポンポンと叩いた。

 「ん?」セレーナはいつもの笑顔で振り向いたが、僕の顔を見るとそれはすぐに驚きの表情に変わった。

 「ねえセレーナ、ちょっと向こうで話せるかな?」

 「い…、いいよ!」セレーナは少しオドオドしながらも、元気に返事をした。


 2階の連れ出して、僕はセレーナに問いかけた。

 「ねえ、なんで僕のこと避けてるの?僕なんかした?」

 僕がそう聞くと、セレーナはなぜか噴き出した。

 …?意味がわからなすぎて僕はキョトンとした。

 「……いや、あまりにもヒネりがなくて直球すぎたからさ。…ごめん、なんかどうでも良くなってきたわ」

 ……???ますます意味がわからない。

 「ごめんね。でも、好きだよ。ユースケのそういうとこ」

 「…?そっか、ありがとう」

 僕がそういうと、セレーナは渋い顔をしてボソッと「長期戦かなぁ」と言葉をもらした。

 「迷惑かけてごめんね。またゆっくり話そう。じゃ、ちょっとエルの手伝いしてくっから!」

 セレーナはドタタタと階段を駆け降りていった。

 …何がなんだかわからない。

 狐につままれた気分で、一階へ降りる。

 カウンターを見ると、少し楽しげに皿を洗っているセレーナと、やや機嫌が悪そうな様子のエルさんがいた。

 「よお、ボウズ!早かったな。どうだった?」

 ワクワクした顔でジュードが聞いてきた。

 「なんで避けてるのって聞いたらなんかセレーナ笑って、ひとりで先にこっちに帰った」

 「⁉︎…そのまま聞いたのか?」

 「そうだけど…」

 「…お前、イカれてるよ」

 ジュードはそう言い残し、記者さんのいる方にスタスタ歩いていった。

 …みんなして、今日はなんなんだろう。


 少し、一人になりたくて、二階のバルコニーに再び向かう。

 ただし、今回は一人で。


 セオニアの夜の風は心地いい。

 嫌なことがあっても、全部忘れさせてくれる。

 

 だけど、今日はなんだか、あまり考えたくないことばかり考えてしまう。

 大会で、僕はちゃんと結果を残すことができるのだろうか。

 もしかしたらボロッカスに敗れて、今以上にみんなに嫌われてしまうのではなかろうか。

 「ねえ、どうしたんだいマイヒーロー?こんなところで黄昏て」

 声の主は、10人組手の時に戦った、ナスターシャのものだった。

 彼女はかなり背が高く、僕からだと常に空を背負っているように見える。

 「せっかくの祝賀会なのに、こんなすみっこに追いやられちゃってさ、…私でよければ、話聞くよ?」

 「…別に、そこまで冷たくされてるようには思わないけどね。ここだって好きで来てるし。…まあでも、話、聞いてくれるのなら、少しいいかな」

 ナスターシャはサムズアップした。「勿論!」


 僕は、今までの話をかいつまんで話した。

 

 ナスターシャは腕組みをして、ウンウンと静かにうなづいた。「それは、疎外感を感じるのもわかるなあ。でも私は、あのセレーナちゃんが悪意をもってそういうことするとも思えないしな。何かセレーナちゃんには、あの人なりの考えがあるんだと思うよ」

 「セレーナなりの、考えか…」

 「そうそう、だからさ、まずは信じてあげなよ、セレーナちゃんのこと」

 「…そうだね、ありがとう」

 ナスターシャは満面の笑みを見せた。

 「まあ、昔色々聞いたからね、セレーナちゃんのことは。…君の知らない、セレーナちゃんも私はいっぱい知ってるよ」

 「…へえ?」

 セレーナが秘密主義者だとはいえ、それでも僕は彼女については多く知ってるほうだとは思う。

 今更、僕が知らないことなんて、あるのだろうか。

 「そんなことがあるんなら、教えてもらいたいね」

 「いいよ!だけど今は教えられないね〜」

 「…なんで」

 「…私と遊びに行ってくれたら教えるよ!ルーム近くなんだし、一回遊びに行きたいと思ってたんだよね〜」

 「…何を企んでるの?」

 「失礼だな、私は純粋に遊びに行きたいだけだよ」

 「まあ、いいけど。僕はあんまり外に出れないんだよ。13日に鷹松の病院に行く時ぐらいしか出られないよ」

 「13日なら大丈夫だよ!行こ☆」

 いったい何が、彼女をここまで突き動かすのだろうか。

 「…まあ、いいよ」

 「ありがとう!じゃあまた連絡するわ!」


 「…なんだ、こんなとこにいたのか」

 ハルトが、少し息を切らして僕らの元にやってきた。

 「エルとセレーナが、呼んでるよ」

 

 ハルトに連れられて一階に戻ると、みんなが何かを取り囲むように立っていた。

 「どこで油売っとったん?用意できたで〜」


 みんなの中心には、僕らのギルドのエンブレムがあしらわれたホールケーキがあった。

 ……正直、見た目がいいとは言えない。

 というのも、僕らのギルドのエンブレムのデザインが、真っ赤な逆五芒星から血が流れているという、人によっては拒否感を覚えるであろうデザインだからだ。

 「ほら、ユースケ引いてんじゃん〜。ごめんなユースケ、これ作ったんユミじゃけんね、ウチじゃないよ〜」

 「ちょ、私だけ悪者にするのやめてくださる!?『ウチのギルドといえばこれだよな〜』って、あんただってノリノリで作ってたんだから」

 「…ウチに向かってあんたとは何様だ?」

 「怒るとこそこ!?」

 

 僕は、おもむろにケーキを半分ほどナイフで切って頬張った。


 「!?」


 僕が突然そんなことをしたもんだから、みんなびっくりしてた。自分でも、なんでそんなことをしでかしたのかはわからない。

 「うん、味は全然大丈夫。おいしいよ、ありがとう」


 「…いい奴だな、お前」

 エルさんがゴシゴシと僕の頭を撫でた。


 「うりゃー!」

 これまた突然、セレーナがなぜかケーキの残りをエルさんにぶつけようとした。が、ケーキはエルさんには当たらず僕の顔面にクリーンヒットした。

 「……セーレ〜〜ナ〜〜」

 「あっ、ご、ごめんて!」


 それがきっかけで、近年稀に見るバカ騒ぎを僕らは繰り広げることになった。セレーナも僕も、エルさんも手当たり次第にその辺のパイやらなんやらを投げ合うし、ハルトとアストはなせか取っ組みあって戯れあってるし、ジュードはおもむろに服を脱ぎ出して踊り出すしで、飲みの席とはいえ、しっちゃかめっちゃかだ。


 気づいたらエルさんのバーはグチャグチャになっていた。

 「掃除しろよ、お前ら」

 見ると、エルさんが箒とちりとりを持って鬼のような形相で立っていた。

 「お前もやるんだよ、エル。お前だって楽しそうに騒いでたんだから」

 セレーナに図星をつかれたのか、エルさんは顔を少し赤くしたが、「…ふん、元凶が何を言ってやがる。…まあでも、ここはウチの店だから、サボらないか監視の意味も含めて一緒にやってやる」と気丈に振る舞った。

 「あら、カッコつけちゃってまあ〜〜」

 エルさんのゲンコツが、セレーナの頭にジャストミートした。

 「痛え…」

 「まあ、掃除終わったら解散にすっから、みんなしっかり掃除せえよ〜」

 「あーい…」


 セレーナはひたすらブツクサ言いながらも、丁寧に掃除していた。

 「あんなに怒らんでもいいじゃん…」

 「まあでも荒らしたり色々しちゃったんだから、しょうがないんじゃない?」

 「それはそうだけどさ…、…というか、ごめんな」

 「何?」

 「祝賀会。台無しにしちゃった」

 「台無しなもんか。久しぶりにバカ騒ぎできて、僕は楽しかったよ」

 「…お前、ホントいいやつだな」

 「そうか?」


 少しだけ目を閉じ、僕は拳を胸に当て、言った。

 「僕、頑張るから。みんなの思い、無駄にはしない」

 セレーナは優しく微笑み、僕の背中をポンと叩いた。

 「私以外に負けんなよ」

 「…君の方こそ」

 「言うね〜」

 不安よりも、十分すぎるほどに、ワクワクが勝つ。

 なんだってできる気がする。そんな最高の一日だった。

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