第9話 懸命の銘(後編)

 「…ユースケ、大丈夫?…その、…あんまり、気落ちすんなよ。…エルは、規格外なんだし」

 「勿論、わかってるさ」

 僕は、セレーナの瞳を見つめ、言った。

 「…僕が震えていたのは、…この世界にはこんなにも強い人がいるんだってこと、…それに、自分がまだまだ強くなれる可能性を秘めてるんだってことを、知れたからだよ」

 セレーナは、目を丸くした、と同時に、ガハハと豪快に笑った。

 「いいねいいねいいね!そのガッツ!そう思えただけでも、この”10人組手”をやった甲斐があるってもんだよ!残り5人とのバトルもしっかり駆け抜けていこう!」

 「そうだね」

 

 そんな時、

 「あの、ちょっと聞きたいんだけど、…俺、もう一回参加できるかな?」

 マルコが名乗りをあげた。

 「…いい加減にしやがれマルコ。でしゃばってんじゃねえよ、雑魚が。さっさと帰ってママのミルクでもしゃぶってな」

 エルさんがとんでもない悪口を吐いている横で、「…いや、アリかも」とセレーナが一人呟いた。

 「マルコ、あなたまだユースケに全部は見せてないでしょ?だったら全部見せてあげてもいいんじゃない?」

 …そういうわけで、僕とマルコとの再戦が決まった。

 「…まあ、何はともあれ、よろしく」

 僕が挨拶をすると、マルコは少し笑みを浮かべて「はい、ヨロシク!」と応えた。

 《これより、斉藤祐介氏とマルコ・ボーロ氏とのバトルを行います。これよりカウントを行います。8.7.6.5.》

 マルコは、相変わらずどことなく笑みを浮かべていて、その姿が少し気色悪かった。

 《4.3.2.1.》

 だけど、その目は一瞬で変貌し、ギラついた。

 《ゼロ》


 僕らは、お互いに距離を取り、相手の出方を伺った。

 

 しばらく対峙したのち、先に動いたのはマルコだった。

 「アクセ、」

 その時僕は【アクセル】を使って突撃してくると思い身構えたが、それは彼によるミスリードだった。

 彼は宙高くジャンプし「【バッファローハンマー】!」と唱え、ハンマーで殴りかかってきた。

 僕はこの不意打ちに驚いた。だが、彼の攻撃は、僕の息の根を止めるまでにはならなかった。


 僕は、ハンマーが当たるギリギリのところで攻撃を避け、マルコの顔面に飛び膝蹴りをくらわせた。

 「ぐぼあっっっっ!!」

 マルコは大きくのけぞったが、これは致命傷にはなってない。

 「【エクスカリバー】!」

 僕は長剣を生み出し、マルコに向かって突撃した。


 だが、マルコも、この状況を打開できるスキルを持っていた。

 「…フハハハッッッ‼︎【カオス・アポカリプス】!死ねっっっっ‼︎‼︎」


 マズい。

 カオス・アポカリプスは、命中率100%の、数秒間行動不能になる強力なスキルだ。

 まともに食らったら、確実にやられる。


 「【アクセル】!」

 カオス・アポカリプスは、ラグのあるスキルだ。

 やられる前に、やる。

 僕はマルコとの間合いを一瞬で詰め、そのまま胸に剣を突き刺した。


 「うわあああああああああああああああ‼︎‼︎」



 《マルコ・ボーロ氏のHPが0になったため、バトルを終了致します。勝者、斉藤祐介氏》

 

 マルコは、だいぶ落ち込んだ様子で、膝をついてうなだれた。

 

 「結局またテメーは不意打ちかよ。しかも負けとるし。本当に学習せんなテメーは」

 エルさんが辛辣な意見を投げかけた。

 「ぐぬぬ…」

 「でも、二人とも悪くなかったよ!どっちが勝つか最後までドキドキした!」セレーナが、僕らに声をかけた。

 そうなのだ。今回は僕も、何とか勝てたという試合だった。それだけカオス・アポカリプスは脅威だったし、今後ある程度対策を練っていかなきゃいけないと思った。

 「…まあ確かに、見応えはあったな。そういう意味ではテメーも悪くなかったな、マルコ」

 

 珍しくエルさんに褒められたマルコだったが、本人はかなり気落ちしており、「…敗者はただ、去るのみだ」と捨て台詞を残して帰っていった。


 「…さて、次にユースケと戦ってくれるのは誰かな〜?誰でも大歓迎だよ〜?」

 「はーいボク!!!ボクボクボク!!ヴォク!!!!!!」


 …やたらと大きい元気な声が辺りに響いた。

 声の主は、ニノと呼ばれている中性的な顔だちの金髪碧眼の美少年だ。

 「ニノか、いいよ!たまには君もニムロディアスに顔出しなよ!」

 「ごめんごめ〜〜ん!!!ちょっと忙しかったんだ〜、テヘペロ!!」

 セレーナの快活な声も相まって二倍うるさく聞こえる。

 だけどこれでも、ニノはギルドメンバーからかなり信頼されている。侮れない。

 「久しぶりユースケ!!全力で戦わせてもらうよ!!!!」

 「うん。…よろしく」

 ニノは全力の笑顔で僕の手を握った。テンションが異常に高く、元気を吸い取られそうになる。

 「よっしゃー!!じゃ、張り切って行っちゃうよー!!!!!!」

 

 ニノがコールすると、フィールドがバトル仕様へと変化した。と同時に、ニノの服装が甲冑のような少し厳つめの武装になった。

 「それ、いいね」

 「へへ、ありがと…!!!!」

 ニノは三つ編みをクルクルと弄って、少し照れていた。

 《これより、斉藤祐介氏とニノ・モン太氏とのバトルを行います。これよりカウントを行います。8.7.6.5.》

 ニノは、バトルフィールドを呼び出したのにもかかわらず、いざバトルモードが起動すると途端に慌て始めた。

 《4.3.2.1.》

 慌てながらも、しっかりと呼吸を整え、前を向く。

 《ゼロ》

 

 「【アシッドノイズ】!!!!!!」

 たくさんのカエルがいつの間にかニノの周囲を取り囲み、爆音を放った。

 ヴァーチャルとはいえ、耳に何かしらの影響が出てきそうな爆音だ。

 僕は、必死で耳を塞いでその場にうずくまる。

 僕を見て一瞬、ニノはニヤリと微笑んだ。

 「【ヘイルストーム】!!!!」

 氷の雨が、僕らの体を襲う。ニノも僕と同じダメージを受けているが、アシッドノイズの効果とダメージも続いている。このままだと、最終的に僕が先にやられるだろう。

 「ハッハッハッハーーー!!このままだとボクが勝っちゃうよーーーー!!!!」


 確かにその通りだ。このままなら僕が負ける。

 …あまり使いたくないけど、あのスキルを、使うしかないのか。

 …もう少し、待つことにした。

 急いでも、仕方ない。

 もうすぐ、ニノも動くはずだ。

 塞いだ耳を研ぎ澄まして、その時に備える。

 

 「ハッハー!!行くよ!!!【カオス・アポカリプス】!!!!!」

 それを待っていた。

 「【ディスアーム】!」

 ディスアームは、それまでのお互いのスキルの効果を全て帳消しにする、最強クラスのスキルだ。

 しかし、発動後、僕はスキルを一切使えなくなる、諸刃の剣でもある。

 

 だけど、今は、それで構わない。


 このまま、フィニッシュまで持っていく。

 

 「イッ、【イナゴ爆弾】!!!!!!!!」

 ニノは僕に向かって指差して、その指先からイナゴの大群が飛んできた。

 だけど、イナゴ攻撃は直線的で、避けやすいし、喰らっても致命傷にはなりにくい。

 僕はゴロゴロ転がってイナゴをなんとか回避し、懐から短剣を取り出し、ニノの喉元に投げつけた。

 「うぎゃあああああああ!!!!!」

 ニノが慌てふためいて、イナゴの軌道がズレた。

 僕は、ニノの顔面めがけて、飛び膝蹴りを喰らわせた。

 そしてそれが、決定打となった。


 《ニノ・モン太氏のHPが0になったため、バトルを終了致します。勝者、斉藤祐介氏》


 「…びえーーーーーーーーんんんんん!!!!」

 普段よりも一層やかましく、ニノは大泣きした。

 「ジェレーナぢゃあああああんんん!負けぢゃっだよおおおーーーーー!!!」

 「はいはい、大丈夫だよーーー。向こうでゆっくり落ち着こうなー」

 そう言ってセレーナは、ニノを連れてバックヤードへと去っていった。

 

 なぜだか、僕の喉元の奥がモヤついた。

 

 「やあ、ヒーロー。あたしの相手もしてよ」

 そう声をかけてきたのは、何度か顔を合わせたことがあるナスターシャという人物だ。彼女の金髪で長髪と、どこかセレーナを意識しているような姿だ。

 「ああ、いいよ」

           ★

 「…ひっどいなホント、ここまでボコボコにしなくてもいいでしょ…」

 数分後、僕の目の前には横たわるナスターシャの姿があった。

 「ごめん、加減できなくて」

 僕がそういうとナスターシャはむすっとした顔をして、だけど冷静な声で「…敵わないなあ、ホントに」と呟いた。

 「まあ、あたしも次はもうちょいやれるようにしとくよ、じゃあね、ヒーロー」

 フィールドから出ていくナスターシャと立ち替わりで、また顔馴染みの人物が入ってきた。

 「俺とも手合わせ、頼めるかな?」

 メガネをかけた細身の好青年、アストだ。

 「もちろん。…でもちょっと休ませて」


 少し猶予をもらったので、僕はその間瞑想をした。

 僕は以前、瞑想のやり方をセレーナから教わった。

 現実でもすることもあるが、ゲームの世界の方が瞑想をしやすい気がする。

 瞑想して、少しリセットされた気がする。

 「準備できたよ、お待たせ」

 フィールドの外でナスターシャと談笑していたアストは、僕の方を振り返ってジャンプしてフィールドに舞い降りた。

 「中々の戦績じゃないか。8戦してハルくんとエルさんだけじゃん、負けたの。…まあ、今から俺に負けることになるから少し見劣りする戦績にはなるだろうがな!」

 「言うねえ〜〜」

 彼の軽口を聞くのも久しぶりだ。

 「まあ、このままだと俺に負けるのは必至だから、俺はお前と同じ条件で戦うことにするよ。それすなわち、スキル開示‼︎この勝負で俺の使うスキルは【サンドパワー】と【魂の一滴】だけだ。これを破ったらルールで速攻で俺の負け!そういうことでいいね、バトルモード」

 

 《かしこまりました、ミスター明日斗。そのように致します》


 「…僕が有利な条件とはいえ、勝手に決めないでほしいんだけど」

 僕は少しムッとしていたみたいで、アストは素直に僕に謝った。

 「悪いなユースケ、だけどこれは必要なことだからな…、まあいうなればケジメってやつよ」

 …よくわからないけど、僕はこれを受け入れることにした。


 このゲームでのバトルにおいて、審判AIであるバトルモードの存在は意外と大きい。

 バトルモードは公平性の番人だ。どちらかが絶対的に不利な裁定はしないし、バトルモードを介して設定されたルールは破ることはできない。

 だから、この勝負でアストがサンドパワーと魂の一滴しか使わないのは、本当だ。

 魂の一滴は、致命傷を受ける時、一回だけHPが1残るスキル、そして、サンドパワーは、僕が与えるダメージが20%の確率で"なかったこと"になる強力なスキルだ。

 どちらも、最初から自動で発動するスキルだ。…わざわざ僕に教えるっていうことは、そもそもスキルに頼らない戦い方が得意だということなんだろう。厄介そうだ。


 《これより、斉藤祐介氏と寺脇明日斗氏とのバトルを行います。これよりカウントを行います。8.7.6.5.》

 アストは、独特な構えで戦いに備える。

 《4.3.2.1.》

 …あれは、"カラテ"の構えだ。

 《ゼロ》


 「【エクスカリバー】!」

 先手を取ったのは、僕だった。

 長剣を生成、アストに斬りかかった。

 剣の軌道はアストの身体をしっかり捉え、綺麗に命中した。

 

 しかし、血が出ていない。

 

 …僕は素早く彼と距離をとった。ツイてない。一発目からサンドパワーが発動して、ダメージを帳消しにされた。

 …落ち着こう。

 アストは、今はどうやら静観している。

 今のうちに、もう一度斬撃を叩き込んで終わらせる。

 僕は間合いを詰め、剣を振り上げて、頭目掛けて叩きつけた。

 確実に、クリーンヒットしたはずだった。

 

 だけど、全くダメージが入っていない。


 …なんてことだ。発動確率20%のスキルが、二回連続だなんて。

 

 「悪くない一撃だ。…今度は俺の番だな」

 距離を詰めすぎたのと、単調な攻撃をしていたのが、仇となった。

 僕は彼から、強烈な目潰しをお見舞いされ、視界が、ほとんど奪われた。

 「アチョ!」

 その隙に足を蹴られ、僕は横転した。

 

 負けを、悟った。

 「オリャッッッッ‼︎」

 首筋を強い衝撃が襲い、何かが折れる音がした。

 

 《斉藤祐介氏のHPが0になったため、バトルを終了致します。勝者、寺脇明日斗氏》

 

 「うおっシャア!やりぃーー!」

 

 思いの外はしゃぐアストに、僕は少し驚いた。

 「…テンション高いね」

 「そりゃそうよ!なんてったってお前、セレーナの愛弟子に勝てたわけだからな!そりゃ興奮もするわい!」

 「…みんな、そう思ってんのか?僕がセレーナの弟子って」

 「まあ、そうなんじゃね?だから、みんな戦いたがってんだよ。お前に勝てたら名があがるってな!」

 …全然知らなかった。


 「おっと、、お前の師匠のお出ましだよ!じゃ、またな〜」


 アストは足早に去り、見慣れた赤い靴が僕の元にやってきた。

 「連戦続きのところ悪いけど…、最後に私と一戦、いいかい?」

 僕は差し出されたセレーナの手を握りしめて、言った。

 「当たり前だろ」

 

 さっきまでと比べ、明らかに、みんなが僕らを注目して見ているような気がする。

 セレーナの求心力の強さが見てとれる。

 …そういえば。

 「ニノはどうしたの?」

 「ニノならあそこにいるよ、ほら」

 ニノは、僕たちに気づいて手を振った。

 僕も手を振りかえす。元気そうでよかった。

 そして、当然といえば当然だけど、見ているのは、ニノだけじゃない。今日バトルした皆、ハルト、エルさん、アミー、シオン、ナスターシャ…、みんなが、真剣な顔で、見ている。

 気を引き締めるのには、十分すぎる状況だ。


 「君は連戦でスキル全部バレちゃってるし、他のスキル使い慣れてないだろうから、今回私は少し不利な条件で挑むよ。私はスキル一個だけしか使えないようにするよ。バトルモード、カモン!」

 《今日は、ミズ・セレーナ。どういったご用件でしょうか?》

 「スキル制限1。対象はセレーナ」

 《かしこまりました、そのように致します》

 「…セレーナ。僕はハンデいらないよ?」

 「まあ、でもスキル全部オープンになってるのはフェアじゃなくない?」

 そうかもしれないけど…。

 

 …僕は少し考え、一つ答えを見つけ出した。

 「僕もスキル制限するよ。バトルモード、僕もスキル制限1で、いいですか?」

 《かしこまりました、そのように致します》

 「ええ…。……しょうがないなあ」

 セレーナはパンパンと自分の頬を叩いて、顔をあげた。

 「やるか」


 《これより、斉藤祐介氏とセレーナ・ユミリウス・ヴィクトリア氏とのバトルを行います。これよりカウントを行います。8.7.6.5.》


 他の誰と戦った時とも違う、圧倒的な緊張感。


 《4.3.2.1.》

 …勝ちたい。セレーナに。

 《ゼロ》


 先手必勝。攻撃は最大の防御。

 それが、セレーナの戦闘スタイル。

 セレーナは剣を抜刀し、凄まじい早さでこちらに襲いかかる。

 僕は短剣を構え、彼女の攻撃に備える。

 

 そのまま剣を振り下ろすのかと思いきや、セレーナは足元にスライディングタックルをしてきた。

 僕は咄嗟にジャンプして横に避けた。

 

 僕は少し着地に失敗しふらついた。その隙を彼女は見逃さず、僕の足元を斬りつけようとした。

 だけど、それは僕の罠だ。

 僕は、再びジャンプし、セレーナの背中に覆い被さり、首筋に短剣を突き刺した。

 「痛っ……!」

 セレーナは反射的に後退した。

 ギャラリーが感嘆の声を上げる。


 僕は、あらかじめ短剣に毒を塗りこんでおいた。セレーナの体は毒に蝕まれ、ジワジワと定数ダメージを受けている。

 しばらくすると、セレーナのHPは0になるだろう。

 

 「【エクスカリバー】」

 長剣を生成し構える。

 この状況だと、なかなかお互いに干渉できないだろう。

 

 「…最高だよユースケ。こんなに楽しいのは久しぶりだ」

 

 セレーナが、不敵に笑う。

 「そうだな、僕も最高の気分だよ。君の弟子として、恥ずかしくない戦いができているし」

 「…それについて一つ、言っていいか?」

 「…?」


 「君は私の弟子なんかじゃない…、友達だ」

 一瞬、フリーズしかけた。

 「行くよ…、【アクセル】!」

 

 セレーナは爆走でこちらに迫ってきた。だが、かろうじて動きを目で追うことができた。セレーナはあらゆる方向から剣で攻撃してくる。しかし、ギリギリのラインで、僕はそれらの攻撃を剣で受け止めた。

 ジャキンという派手な金属音が耳に響く。

 アクセルで派手に動いた分、彼女に蓄積するダメージも大きくなる。

 このまま、いなしきれれば…

 そんな風に、思っていた時だった。

 

 僕のエクスカリバーが、折れた。


 「うおおおおおおおっっっっっっ!」

 そのまま彼女の剣は、僕の首をちょん切った。


 《斉藤祐介氏のHPが0になったため、バトルを終了致します。勝者、セレーナ・ユミリウス・ヴィクトリア氏》


 「…やっぱすごいな、セレーナは」

 僕は大の字で、天を仰いだ。

 

 「何言ってんだ、充分君も強かったじゃないか」

 僕は差し出された手を握りしめて立ち上がった。

 「ありがとう」


 「よし…、ユースケも、みんなもこれで成長したことだし、今日はこれでお開きにしようか!また今後の予定は追って伝えるよ。皆さん、お疲れ様でした」

 エルさんが仕切って、一応解散になったが、その後もしばらくは十数人がそこに留まり、喋ったり遊んだりしていたみたいだ。

 だけど、僕は疲れたので、少しだけ皆と話をして帰った。

 帰り際、セレーナが見送ってくれた。

 「…今日は久しぶりにワクワクしたよ!最高だった!…あれなら審査も通ること間違いなし!」

 「ほんとかなあ?」

 「ホントだって!!今日のデータ、明日までに送っとくね!」

 「…何から何まで、ありがとう」

 セレーナは無邪気な笑顔でニカーと笑った。「いいってことよ!!!」


 「本当に今日はありがとう、何から何まで…」

 僕は深々と頭を下げた。

 「いいっていいって!ほら、疲れてるんだし、今日は帰りなよ。また今度!」

 「そうだね、また連絡するよ…、バイバイ」

 「バーイ!!!」

 

 ログアウトして、現実に戻る。

 窓の外ではカエルが騒がしく鳴き、月明かりが優しく顔を覗かせている。


 僕の身体は心地よい疲労感に支配され、自然と深い眠りについた。

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