第2話 駅の夢
よく駅の夢を見る。寝ている時の夢の話だが、さまざまな奇妙な駅が登場する。例えばよく知っているはずの駅なのに、見知らぬホームが増えていて、乗ったら最後、文字すら読めない奇妙な駅が永遠に続く路線につながったり、大都会の駅にもかからず、誰も近寄らない洞穴のように真っ暗でがらんどうな地下鉄の入り口があったり、線路を進むに連れて極細になっていく(乗客は一体どうなるのだろうか)列車が通過する駅などいろいろなタイプが登場する。
夢は大抵そうであるように、見ている時はその奇妙な状況を奇妙だと思わずそういうものだと受け入れている。だが当然、目が覚めしばらくすれば一体なぜこの奇妙な内容を現実のことのように感じてたのか首をかしげることになる。どうして夢の中では破綻や矛盾点に気づけないのだろうと本当にいつも不思議だ。とはいえ、この夢の駅たちは自分にとってインパクトがあるのか結構覚えており、なかには何年、何十年も覚えている駅もある。
一番古い記憶の夢の駅は今から30年以上前だ。当時高校生だったので、高校最寄駅が舞台だった。夢の中でのその駅はホームだけでなく駅構内すべてにブルーの制服の大男がびっしりと詰まっていた。全員同じ人物に思えるほどそっくりだが、顔ははっきりしない。その中で自分は必死に大男をかき分け列車に乗るためホームに向かう。なぜか自分以外に一般乗客がいなく、謎の大男たちは何も言わずびっしり詰まって立ってるだけだ。なんとか体を捻り込み、ホームの階段につながる通路脇まで進んだ。前を見ると通路の隅の一角だけ大男がいないスポットが見えた。私はいったんそこで休みたくなり、その隅にすっぽりと収まった。周りには大男がびっしりなので、彼らの背中しか見えない。しばらく休んでから再び大男をかき分けて階段の方に向かおうとした。ところが、大男の隙間がさっきよりもさらにびっしりと詰まっていて、もうかっちかちに固められたレンガのようになっている。指の爪すら入らない。
その時ナレーションのような声が聞こえた。
「その隅から永久に出ることはできません」
自分はこの時、永久の塊に押しつぶされたような恐怖を感じた記憶がある。そして、たしかに自分はそのまま永久にこの状態を過ごしたという「体験」をした気もした。それは一瞬の夢の時間に永久の時間がずぶりと注入され主観時間が破壊されたような、とてつもない恐怖だった。
ひょっとしたら、この夢を今も覚えているのは、自分の脳内のどこかでその夢の自分が今も閉じ込められいるからかもしれない。
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