SF的な文章集

田中空

第1話 三つ目の男

 見渡す限り白い荒野が広がっていた。


 少年は空腹だった。微風に芳ばしい薫りが乗っている。彼はもう歩く事はできなかった。すでに十日間歩き続けていた。足は焦げたベークライトの棒のようになり、靴も履いていなかった。微風が少し強まった。その追い風で彼は前傾姿勢になり、そのまま乾いた土に倒れこんだ。きな粉のような砂が舞った。枯れ草のいがらっぽい匂いが少年の鼻孔をザラザラと通過した。しばらくして地面に押し付けていた片耳に軽快なリズムが届いた。それは急速に大きくなり、そしてふわっと後頭部に湿った気配を感じた。


 「聞こえるか。3358号。」

 「‥‥」

 「‥この先には何もない。その事は知っているはずだ。」


 奇妙な鉄の馬に乗った男が少年を見下ろしていた。男の額には目があった。倒れている少年は息を吐いた。パフっと砂が舞った。鉄のガチャガチャという音が聞こえた。パスンと三つ目の男が少年の横に降り立った。


 「お前のしている事には、まるで意味がない。」


 そう言いながら少年を片手でつまむようにお持ち上げた。すると少年はまるで火で炙ったバナナの皮のように縮れはじめ、そして一本のゆらゆら舞う蔦になった。そして蔦は男の額の目にスパゲッティのように吸い込まれた。


 「‥どうして、どこかに行こうとするのだ。」


 そう言うと、三つ目の男は強く短い息を吐いた。額の目にヒジキのような蔦の切れ端が残っていた。しばらくすると風に舞った。そして、切れ端は白い荒野を旅立って行った。

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