第138話 パーミルの世界

 「勇者召喚に使われた魔力を、王宮魔導師10人分とは言ってきたけど。」


 雨月の説明によると、もうこの段階から人によって違うらしい。


 『勇者プラス』である千夏と朔夜は、おそらく10.5人分くらい使われてるし、『勇者マイナス』の私とほむらは9.5人分くらいしか使われていない。


 ちなみに、これが9人分までなれば、小笠原のおっさんのように『勇者』にすらなれないはずだ。


 「で、世界の壁の加護を受けた自分達の価値は3倍程度、等価交換だと31.5人分から28.5人分と、すでに大きな幅があるわけ。」


 ……

 雨月、理系だったっけ?


 いや、動物学……って言うか、雨月にとってはモフモフ学か。

 まあ、理系だな。


 いや、まだ理系云々言う段階に無いこともわかっているよ。

 ただ、小数点が付き出した時点で、嫌いな人には恐怖だからね。


 「仮に、『王宮魔導師30人分の魔力』を100%とすると、90%ではまだプラスの加護が出るからダメ。

 机の上での計算だけど、79.6%から79.7%くらいがいいと思う。」


 ……

 駄目だ。

 熱が出そう。


 「今後のためにも、相手が『勇者プラス』でも『勇者マイナス』でも、一定の魔力を基準にしたい。

 計算上は5%くらいの差異がでるんだけど、基準を『マイナス』に合わせれば、元々の能力差があるだけに……

 加護を全て失って更に弱体化なんかしないで、多少のプラスが残ったまま帰れると思うんだけど。

 って、あれ?」


 雨月の前に、王宮勇者一家プラス華子の、千夏以外が全滅した。


 いや、頭痛いわ。

 死屍累々(笑)


 「たぶん大丈夫。

 でも最初だけはどうしても、ぶっつけ本番の実験なんだよ。

 79.6か、……ううん、79.7%の不等価交換でいいと思う。」


 雨月の結論が出たところで。


 「んじゃ、初っ端は私で。」


 改めて口にすると、

 「いちご……」と、千夏が困り顔。


 「わたしにしない、最初?」


 ったく。

 相変わらず人がいいなぁ、初代勇者は。


 危ないかもしれない1人目に、私が立候補した意味も気付いている。


 「私の方が適任だよ、マイナスだし。」

 「いや、プラスマイナス、関係ないでしょ、この場合。」

 「まあ、そうだけどさ。」

 「なら?」

 「私が先に帰った方が、話がスムーズにいくよ。」

 「は?」

 「だって、私、都市伝説だし。」


 オカルト雑誌の表紙を飾ったらしい、私。


 髪を染めようとしたけど、それも止めた。


 映像記録さえ残る、生ける都市伝説の証言なら受け入れてくれるだろう。


 ならば、千夏初め、力、栄太、香澄なんかの古い召喚者の道を開けるのは、私だけだ。


 「自己犠牲じゃない。

 これが最適なだけ。」


 言い切ると……


 ああ、初めて見たな。


 「くそう」と、少しだけ涙を見せた初代だった。

 

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