第137話 ピンクはマジでペンキだってさ

 「で、この婚約者ってのがひどいヤツで‼

 って、ちょっと聞いてますか⁉」

 「うるせえなぁ、もう‼聞いてる聞いてる‼」


 いちごが28号にうざ絡みされている。


 ……

 ああ、もう名前で呼ぶか、伊勢崎華子だ。


 晩餐会の会場で崩れ落ちた華子を、いちごが王宮内のゲストルームに連れてきたのだ。


 最初、髪をピンク色に染め、

 『王子様に見初められる』どうの、馬鹿としか思えないことを言い出した彼女について、王宮勇者一家のメンバーに報告すると。


 「ああ、婚約破棄ものかな?」

 「偽聖女かもしれないぞ。」

 「悪役令嬢?」と、ほむら、いちご、世奈の順番にそれぞれ反応。


 お互い全然違うことを言ったのに、何故か頷き合って分かり合った。


 なんなんだ?


 まあつまり、そういうジャンルの異世界ものががあるのだそうだ。


 「えっ⁉じゃあ、28号は王宮に入り込んでこの国を滅ぼそうと⁉」

 「うーん、そうじゃなくて……」

 「多分王族とか、身分の高い人に溺愛される、女の子の夢と言うか……」


 「ま、夢見がちな乙女ってヤツだね」と、いちごがまとめた。


 「なら、夢を壊してやればいいんじゃない?この国、夢が見れる状態じゃないし。」


 で、例の晩餐会。

 いちごはメイドに化けて潜入して、万が一の事態に(ブチ切れて28号大暴れとか)備えていたが……


 無事夢から覚めました。

 良かった良かった。

 

 話を聞くに、華子は訳のわからない婚約者に満座の席で婚約破棄され、直後異世界に召喚されたらしい。


 ああ。それで、なんだか不安定だったのか。


 しかも大きな会社のお嬢様。


 「話を聞くに、その馬鹿な婚約者君?」

 「元です‼」

 「はいはい。その元婚約者君は、社会的制裁が済んでいる気がするよ。

 何の落ち度もない年下の婚約者を満座の席で傷付けて、直後あんたは行方不明でしょ?フルボッコ待ったなしだよ。」

 「そうでしょうか?」

 「うん。

 もしそうなっていなければ、千夏が『もぎ』に行ってくれるだろうよ、帰ったら。」


 なぜか勝手に巻き込まれた。


 いや、『もぐ』けど。


 ここに来て、アルスハイドから返還を要望する人、残る人がはっきりしてきた。


 わたしは帰る。

 力と子供達。

 栄太と香澄。

 朔夜、健介、正直プラス、リーシャ。

 華子。

 いちご。


 そして帰らないのは……

 終と、押しかけ女房になる気らしいほむら。

 研究馬鹿の雨月。

 九八と勇作のヤンキーコンビ。

 世奈とハイの親子。


 帰らないと決意したのは、それぞれに元の世界と縁の薄いメンバーだ。


 最年少の世奈までが『帰らない』選択をしたのは予想外だったが、家族との絆が無さ過ぎる彼女は、こちらで貴族街孤児院の面倒を見ながら生きるそうだ。


 終もほむらも残っているし、頼りになるか微妙だが、ヤンキー勇者2人もいるし、心配しても仕方がないのだろう。


 ただ、帰りたくなった時いつでも帰れるように、『勇者返還』のシステムは作り上げておかなければならない。


 そこを雨月と詰めていたが、

 「じゃあ、最初の『返還』は私だね。」

 と、言ったいちごのセリフの、単純に早く帰りたいわけじゃない、深い意味に気付いて、胸の奥がヒュンッとするのだ。

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