第133話 再びの2度見案件

 小笠原さんのデータを得て……


 10vs9の不等価交換でも、僅かながらの能力のプラスが認められた事実はなかなか重い。


 要は、10vs9では消滅なのだ。


 わたし達はこれ以上ステータスを伸ばせない。


 出来れば、勇者としてプラスされた能力を削りたい。


 なら、10vs8なのか、もしや10vs7なのか?


 実験が出来ない以上、それが『机上の空論』になら無いように、綿密な計算がいる。


 失敗は取り返しがつかないから、雨月が頭を捻りまくる間、わたしは、

 『やはり知らないふりは出来ない』と、他の勇者達を訪ねることとした。


 ヤンキー勇者事件の時に話題にしたが、今ここにいない勇者達は、

 『どうせ日本に帰れないなら』と、異世界に骨を埋める覚悟をした人達だ。


 ただ、実際『帰ることが出来る』と前提条件が変わった以上、知らせるべきと判断したのだ。


 『移動魔法』を使いまくり、勇者ナンバーが早い順に訪問した。


 やっぱり『異世界補正』はあるのかもしれない。


 訪ねる内にそう思う。


 何故かいちごにだけ働いていないけど。


 多くの……

 と言うか、野に下った勇者達は例外無く、日本に縁が薄い人だった。


 例えば、8号勇者の片山桐太(かたやまきりた)。


 召喚時20歳だから、今は20代後半か?


 彼は中学生の時両親が事故死、引き取られた親戚の家と折り合いが悪かった。


 王宮のメイドと恋仲になり、今は地方都市で小さな雑貨屋を営んでいる。


 「教えに来てくれてありがとう。」

 と微笑んだが……


 もちろんアルスハイドでの生活が大切で、帰る気はない。


 こう言う人がほとんどなのだ。


 家族と折り合いが悪かった人、死に別れしている人、家族どころか社会そのものが苦手で引き込もっていた人……


 「日本に帰れることになった。」


 そう伝えると一様に驚くものの、実際自分が帰るつもりは無いようだ。


 数人から、形見のつもりなのか、ネックレスや腕時計などの小物を預かったが……


 『呪いの』なんちゃらにならないように、気を付けて持ち帰ろう。


 取り敢えず、わたしは帰る。


 行方不明11年目。

 取り巻く環境などは様変わりしているだろうし、簡単ではない。

 でも帰る。

 これは決定だ。


 成り行きだったとは言え、アルスハイドに思い入れはある。

 わたしが守ってきた世界だ。

 でも、わたしがいるべき世界ではない。


 だから帰ろう。


 勇者ナンバー順に巡ってきたから、これは偶然であり、面倒を後回しにした訳ではない。


 わたしは、28号の借りている、ある地方都市のアパートの前に来た。


 29号が世奈、30号がいちご。


 つまり最後の1人である。


 そしてこの最後の1人が、特に面倒なことも分かっていた。


 「こんにちは。」


 ノックをしても反応が無い。


 仕方がない。


 ドアを引くと、すんなり開いた。


 そして、そこにいた28号に。


 キィ。


 ……


 パタン。


 キィ……


 いちごの、大福関節技事件以来の、2度見案件に遭遇したよ。

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