第131話 勇者じゃない男の異世界生活

 「はあ、勇者召喚ですか。」

 「そう。この国では過去31回勇者召喚が行われて、30人の勇者が召喚されてる。

 あなたは『失敗』だと思われていた、31回目ね。」


 家に招いてもらい、机を挟んで話し合う。

 千夏が現状を説明した。


 16.5号は小笠原健とか言う、かなり年上のおじさんだった。


 あー、でも、この世界の庶民の家、初めて入った。


 終の事務所。

 朔夜達の、日本風に言う賃貸アパートもそこは王都の物件で。


 当たり前の村の家は初めてだ。


 石と木で作った一軒家。

 正直狭いし、心許ない感じだ。


 この世界、地震は無いのかな?

 耐震基準が少し気になる。


 「勇者召喚には王宮魔導師10人分の魔力が必要で、あなたの時は大福……

 あー、王様が『少なくしたらどうなるんだ?』って言い出して……」


 千夏の説明を、同じ家に住んでいるらしい女性が気にしている。


 おっさん、異世界で結婚してたよ⁉️


 やるなぁ。


 あと、年齢的に実子はあり得ないが、中学生くらいの小僧も気にしてるね。


 奥さんの連れ子か何かかな?


 私達の言葉は、日本語で話しているつもりでも、アルスハイドの言語に変換される。

 向こうからの言葉も同じ。

 日本語に変換されて聞こえてくる。


 ……

 『異世界補正』あるじゃん⁉️


 なんで私だけ『都市伝説』にするかな⁉️

 性格悪い神様め‼️


 今はおっさんの使う日本語だけが変換されず(彼に『異世界補正』は無い)、話が中途半端に伝わるから、2人は不安になるのだろう。


 おそらく、彼の返事は決まっているだろうし……


 千夏も気が付いている。


 「私達は今帰る方法を探している。

 で、あなたに会いに来たの。」


 ズバリ言うと、おっさんも気付いたのだろう。

 わざわざアルスハイドの言葉で、

 「俺は帰りませんよ。

 もう親は死んでいるし、日本に心残りもない。

 こちらには妻も子もいますしね。」

 と、笑う。


 緊張が解けたのだろう。

 ふらつく母を子が支えた。


 うん、良かった。


 「まあ、無理に連れ帰らないし、そこは安心していいよ。

 ただ、私達が帰るにあたって、データが欲しいの。」


 千夏が説明して、私が鑑定でステータスを確認した。


 必要量の9割の代償で、果たしておっさんはどうなったか?


 ……オガサワラ・タケシ(54)……


 職業  未定(異世界人)


 体力  C

 魔力  C

 力   C

 知力  C


 魔法  生活魔法


 ……

 「これって、どうなの?」


 千夏の質問に、実は何人もサンプリングしている。


 いや、個人情報とは思うけど、本人にも他人にも言う気は無いし。

 覗き見、勘弁して欲しい。


 「この世界の『普通』は、Eだよ。」

 「E⁉️」

 「うん。

 力が1番わかり易いけど、たまにいるヒョロヒョロでか弱そうな人がF。普通がE。」

 「……うん。」

 「体が大きくて強そうな人がD。」

 「……」

 「王宮騎士の力がC、王宮魔導師の魔力がCだね。」


 つまり、おっさん、王宮で働けるレベルのステータス。


 「小笠原さん、日本では?」

 「普通に経理係長ですよ。」


 つまり、運動なんかしていない、と。


 「10vs9の不等価交換でも、プラスが発生してる?」


 千夏が考え込んでいたが、細かいところは雨月に任せる他無いだろう。


 帰り際、おっさんに種籾を渡した。


 「へ⁉️米⁉️」

 「うん。作ってみる?この村で。」

 「そりゃあ、作りたいですが、俺は農業にそこまでの知識は……」

 「ああ。じゃあ今度、4号に声掛けとく。」


 近くこの世界からいなくなる、私からの置き土産だ。

 主食としての『米』の有用性云々より、残る人の助けになるだろうから。


 ここで育てるならセーフだしね。


 「4号?」

 「ああ。召喚勇者4号の田畑力。米作のプロだよ。」

 


 




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