第129話 ラッキーレインは(精神的に)くる

 「うー、マジかぁ。」

 「気が進まないけど、仕方がないか。」

 「本気で失礼だな、あんた達。」


 翌朝、往生際が悪くブツブツ言ったものの、他に手が無いので諦めるしかない。


 勇者一家で朝食後、ほむらにラッキーレインを降らせてもらった。


 いや、ほむらは文句を言うけれど……


 わたしは『ありがたがられる』のは苦手だ。


 アルスハイドに召喚されて、確かに魔物は狩ってきたが……


 それはただの八つ当たりだ。


 途中からこの世界の理不尽な実情を知り、守るためにも戦ったが。


 きっかけは間違いのない、ストレス発散の八つ当たりだから、

 「勇者様、ありがとうございます。」

 とか、

 「村が守られました。」

 とか、

 「最低限の被害で済んだことを感謝します。」

 とか、言われる謂れは無いと思う。


 ラッキーレイン、『運』をカンストさせてしまって、人を神様みたいに神々しくする。


 勇者とか、正体関係無しに拝まれる。

 きつい……


 「千夏、思いついた場所に転移してくれよ。

 運はカンストしてる訳だし、適当でも16.5号の近くに出るだろ。」


 何故か焦ったように言ういちご。


 いちごも『無限感謝地獄(×無間地獄)』は苦手らしいし、この状態、わたし達の行動に慣れている王宮内でも拝まれるし。


 「わかった。」


 自分自身でも意識しない程度の、思いついた場所に反射で移動魔法。


 移動する間際に聞こえてきた。


 ドアの向こうから、

 「あーっ‼あんなところに探していた書類が⁉」


 ほむらさん、漏れてる漏れてる。


     ☆     ☆     ☆


 「ここは、門?」


 いちごが辺りを見回して呟く。


 「うん、王都の西門だね。」


 適当転移、やっぱり相当近場だった。


 わたし達が現れたのは、王都の西門を出てすぐの場所。


 この世界の都市は、大抵が城塞都市であり、王都もご多分に漏れず。


 朔夜の結界が完成するまでは、国のそこかしこに魔物がいたのだ。


 竜などは無理でも、小型の魔物の生活圏への侵入は、張り巡らされた壁で防いでいた。


 門番を立てた出入り口が、東、西、南、北、東北、北西、南東、南西の8か所あり、ここはその中の西門だ。


 わたしの移動魔法は、1度でも行ったことがある場所であることが条件だ。


 以前ここを使った時は……

 『結界』のある時代の前の、魔物討伐に向かう時。

 人は壁の外など危険地帯に出たがらず、皆閉じこもってばかりだったから、門は閑散としていた。


 今はどうだ?


 朔夜の功績マックスだ。

 安全になったから、人々の行き来が増えた。

 商隊や旅人目当ての出店も並び、賑やかになった。


 ああ、本当に。


 『変わったんだなぁ』としみじみする耳に、

 「おい‼千夏‼

 ぼうっとすんな‼やばい‼」と、いちご。


 向こうから、真っすぐこちらに近付いてくる老婆が見える。


 やばい‼

 拝まれる‼


 慌ててダッシュでその場を離れた。


 いちごと2人、適当な木に登り葉の陰に身をひそめる。


 カンスト『運』が、少し落ち着くまで身を潜めるつもりで……


 軽く昼過ぎまでかかった。


 いちごが、コンビニのお握りを召喚してくれた。


 30号が召喚されて以来、1番『食料召喚』に感謝した件。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る