第126話 召喚(勇)者16.5号 小笠原健

 俺はおっさんである。


 いや、気持ちは若いつもりなんだけどね。


 俺はいい年していつまでも子供っぽいと言うか、いや、それも生き方だしいいんだけれど、なかなか『大人』にはなり切れないタイプのおっさんだ。


 結婚もしなかった。


 俺の名前は小笠原健(おがさわらたけし)、54歳。


 このアルスハイド王国とか言う、変な世界に来て2年少し。


 両親はすでに亡く(普通に寿命だ)、1人っ子な上未婚のままだった俺は、経理係長だった会社の帰り、道を歩いていたらいきなり異世界だった。


 いや、驚いたよ。


 いきなり風景がすり替わり、地方都市の繁華街が、足元は土、コンクリートの建物どころか壊れかけの小屋が10数軒しかない、山奥の廃村みたいな世界に変わる。


 「うおっ‼」

 

 時間は……

 日本と同じなのか?

 22時過ぎ、一面の星が目に染みる。


 こんな星空、子供の頃以来な気がする……


 少なくとも日本ではない。


 やはりやってみるしかないと、大声で叫んでみる。

 「ステータス‼」、と。


 俺はいわゆるオタク気質で、異世界物は読み込んでいた。


 けれど、何も起こらなかったよ、あれぇ?


     ☆     ☆     ☆


 「これ、やばいタイプの異世界転生では?」


 つい独り言になったのは、

 「ステータス‼」を声のトーンを変えたり、ポーズをつけたり、手を変え品を変え、10回以上叫んだ後だ。


 ここは日本ではない。


 風景が変わり過ぎだし、そこは確定と思う。


 けれど、異世界転生もの名物、爆走するトラックにも、

 「あなたは私のミスで死んでしまいました。すいません。」

 と謝ってくる、きれいな女神様にも会っていない。


 でも、現状異世界っぽい場所にはいる。


 え?

 これ、どうすりゃいいの?


 右も左もわからない外国の街に、いきなり放り出された気分。


 そしてそれが間違いないと思ったのは、

 「ステータス‼」が煩かったらしい、気付くと集まって来た村人達の、

 「……ンニュ……ノミュ……」

 「ンナゥ……ニュヌ……」

 言葉が全く分からなかった時。


 うわっ、絶望だ。

 異世界名物、言語理解もなかった模様。


 ただ、後にラクア村だと分かった、このアルスハイド王国ではよくあるタイプの貧しい村の、人間は優しかった。


 王が住んでいる場所……王都の郊外に位置し、国境ではないからそんな強い魔物の被害もない。


 そう言えば、この国、魔物が住む『魔の森』に囲まれてるんだって。


 うわっ、面倒だなぁ。


 俺はラクア村で、身振り手振りでコミュニケーションを取りながら、農作業の手伝いをして暮らし出す。


 異世界特典はなかった俺だが、体力は以前よりアップした気がする。


 これまでより重いものが運べる。

 疲れない。


 村に恐らくゴブリンだろう、緑の小鬼が紛れ込んだことが数回あった。


 「ゴブリン死すべし‼」で、鍬でフルスイングした。


 村人達の反応を見ると、どうやら俺は、他人よりちょっと強いらしい。


 以来、通常は農業の手伝い、万一の時は警備隊長みたいな立ち位置で、そのまま異世界に暮らしている。


 帰りたいほど日本への執着はなし、大体帰り方がわからない。


 村にいた、魔物被害で夫を失った未亡人と恋仲になった。


 異世界で結婚出来た。


 これが噂のスローライフと言うやつか⁉


 日々が充実し流れていく……

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