第125話 呪いの時計は、今は母の下にある
「時計って、私の?」
「そう。中身全部引っ張り出して尚正しい時間を刻むって言う、ほぼ『呪いの時計』。」
「『呪い』言うなし。便利じゃねえか。」
「まあ、便利って言やぁ便利だけど。」
「ここからは自分が説明するよ。」
珍しい、真面目モードの雨月が話を引き取った。
「あの時計は、温泉饅頭と等価交換で、正式にアルスハイドから『変換』された初めての存在だよね。」
勇者と魔力の等価交換。
正式に等価交換された時、勇者には『世界の壁』からの能力補正がある。
饅頭と時計の等価交換。
饅頭は賞味期限が千年延びた。
『世界の壁』からの能力補正だ。
なら、逆方向の私の時計は?
時計にも能力補正が加わり、見事呪いの時計となった。
「つまりこの世界から勇者を返そうとした時、等価交換では能力がプラスされることになる。」
私達はただでさえ『勇者』だ。
この世界の人より力が強く、魔法も操り……
って言うか、私は『食料召喚』しか使えないけど、ね。
「じゃあ、等価交換だと、能力がプラスされるってことか⁉
ただでさえ、無駄に強いのに⁉千夏とか‼」
「……無駄とか言うな。」
「そう。無駄の上に更に無駄を積み上げることになって、」
雨月が言うには、
『生物には限界がある』と言うことらしい。
普通の人間を『勇者』にした。
もうここで限界なのだ。
ありえない体力、ありえない魔力。
基準から大きく逸脱した力だ。
理を無視した力だ。
「多分今自分達は、存在していられる限界値に近いと思う。」
とは、雨月の弁。
限界値を超えれば肉体が維持できなくなり消滅だろう。
「だから、等価交換は諦めないといけない。」
勇者は本来、王宮魔導師10人分の魔力と引き換えに、アルスハイドに来た。
勇者召喚は少なくとも30回行われ、王宮魔導師300人分の魔力が、魔法なんか使わない日本側にある。
雨月はこれをかき集めて代償にしようとしていたが……
「自分達は勇者だから、今はもう魔導師10人じゃ釣り合わないよ。魔導師30人分くらいの魔力が必要で、でもこれだと『等価交換』になって消滅待ったなしだから。」
「どの程度『釣り合わなくする』かが重要になってくると思うよ。」
つまり『不等価交換』。
代償が足りないから、『世界の壁』は返還される勇者にプラスの効果を付けられない。
「ただ量を間違えると、マイナスの効果が生まれる可能性があるし……
正確なデータが欲しい」と、雨月は言った。
いや、でもそれだと?
以前聞いた話とズレが生じる。
「16号と17号の間に、饅頭が実験したって聞いてるけど?」
魔力が足りないと、召喚されない。
「おっ、知ってる⁉いちご‼」
「うん。饅頭が一般人100人必要なのに、敢えて90人で召喚したって。
で、召喚できなかったって聞いてる。」
「そう、それ‼」
手を叩いた雨月が、我が意を得たりと、嬉しそうに笑った。
「それ、本当に召喚出来なかったと思う?」
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