第121話 帰る日に向け考える

 ヤンキー勇者の大暴走だが、結局僕達結界の教会組が、活躍すること無く終了した。


 いや、それでいいよ。


 誰も無茶したり、怪我したりは無かったみたいだし、それなら出番無しで万々歳だ。


 リーシャのためなら戦う決意もしたし、実際戦うつもりだった。


 でも、何事も無く終わるなら、それが1番。


 僕は基本戦闘が苦手だ。


 争いの終焉は、千夏さんが中学生くらいの女の子と、幼稚園児くらいの男の子、プラスあの日教会を襲撃してきた4号勇者をつれて、魔法で転移してきたので知った。


 人質の救出と、ヤンキー勇者達の確保。


 一緒に来た少年少女が、つまり人質だったのだろう。


 何せ襲撃犯自身だ。


 4号の姿に、一瞬僕と世奈さんが身構えたから、彼は困ったように笑ってみせる。


 「ああ、俺は田畑力だ。

 悪いな、怖がらせた。」


 差し出す手を僕は握った。


 「山田朔夜です。」

 「伊藤健介。」

 「高橋正直です。」

 「坂谷世奈……

 あの‼️田畑さん‼️」


 急に世奈さんが言い出したのは、危機はもう去ったのに、生真面目な、彼女らしい願いだった。


 「万一に備えて、『鉄壁』を工夫しました。

 試してみてくれませんか⁉️」


 今更、なのだ。


 勇者以外に、この結界を破壊など出来ない。


 そして、それを画策する別の力ある勇者が、もう1度出現する可能性など万に一つ以下なのに⁉️


 けれど、真面目な彼女はそれを望み、力さんも応えた。


 最初に現れた時は、千夏さんの魔法だから結界内に飛び込んでいる。


 「中からでいいか?」

 「あ、それだと逆さまだから。」


 力さんの前に『鉄壁』を使った壁(お試しサイズ)が出現した、……らしい(見えない)。


 手を伸ばし、引き裂きにかかる。


 「うわっ、裂けないことは無いけど……

 裂き難ぃ、これ。」

 「2枚重ねました。

 魔力にも流れって言うか、繊維の方向みたいなものがあって、敢えてズラして重ねてます。」

 「うぅ、くそっ‼️」


 時間をかけて無理矢理穴を開けた力さんの手が、前に伸ばした途端次の『鉄壁』にぶつかった。


 「1枚目と2枚目を重ねて、3枚目を少し離して。どうですか?」

 「どうって?」


 どこまでも真面目な世奈さんに、力さんは苦笑いで、

 「更に守りが強力になった。」

 と、太鼓判を押す。


 「良かった。」

 それで世奈さんも、やっと緊張を解いたのだった。


 人質達を預けて一旦宿屋に戻る時、ちょっとした騒動が起きる。


 子供達が力さんを離さないのだ。


 女の子も泣きそうな顔で袖口ををつかみ、男の子は力さんにかじりついて離れない。


 「嫌だぁ‼️置いてかないでぇ‼️

 とーちゃん‼️とーちゃん⁉️」

 「大丈夫だ、1時間くらいで戻るから。」

 「嫌だぁ‼️」

 「ダイジョブ、大丈夫だよ、レオ。

 俺はお前らから離れないから。」

 「チカラさん……」

 「大丈夫だ、レオ。ほら、ラナも。」


 傍目に見れば、微笑ましい親子の会話だ。


 ただ、瞬間僕の中に迷いが落ちる。


 「‼️」


 大丈夫なのだろうか?


 振り仰ぐ結界の教会で、僕は今、『帰るため』のシステムを作っている。


 『結界発生装置』もそうだ。


 魔物被害に苦しむこの国の人を助けたくて、ただそれしか考えなかった結果、ヤンキー勇者なんて不満分子を生んだ。


 彼らにとっては、『結界』など邪魔でしかなかった。


 なら、『勇者返還』は?


 あの親子?を引き裂くことになるだろう。


 聞いている情報では、力さんは誰より元の世界に帰りたがっている。


 その時彼は、あの少年少女の存在に苦しむだろう。


 僕がリーシャを連れていくように、力さんがそれを望めば協力は惜しまない。


 でも……


 本当にそれでいいのだろうか?


 後日悩みを打ち明けると、

 「難しく考えなくていい」と、笑ってくれたのはいちごさんだ。


 「問答無用で連れて来られた『召喚』とは違うんだ。

 今回は皆道を選べる。

 自分が作ったこの世界との関係性は、自分でケリをつけるさ。」

 「そうでしょうか?」

 「ああ、大丈夫だよ。」


 今は『結界』のある世界での、時が巡ってゆく……





 ヤンキー勇者編も終わりまして、次話から新章です。

 カクコンの締め切りの関係上、あまり切りが悪いのも……

 と言うことで、次の更新は2月2日になります。

 さて、後は無事に帰るだけ、の勇者達。

 どうなるか、今少しお付き合い下さい。


 あ。

 朝更新している現代ファンタジーの方は、切りとか考えていると場合じゃない、章の半ば部分なので……

 こちらは更新続けます。

 よろしかったら読んでみて下さい。


 

 

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