第120話 神様に弄ばれた人

 「俺にスキルなんて無い‼」


 勇作さんが叫んだ時、

 『ああ、本気で知らなかったんだ』と、なぜか納得してしまった。


 僕は、勇作さんの1の手下で、ある意味信頼されていた。


 だから聞いたことがある。


 「弱みだから内緒だけどさ。俺にはスキルも称号も無いんだ。」

 と。


 「あんたも神様のいたずらの犠牲者か。」


 大崎さんがため息をついた。


 「どういうこと、いちご?」

 「んー、白地に白ペンだよ。」


 この世界の神様は、ずいぶん性格が悪いらしい。


 勇作さんのステイタスは、

 『スキル (空欄)』

 『称号 (空欄)』だったけど、実はそこに記述があった。


 あえて読み取りにくい形にして。


 「この記述は、『誰かが視認する』ことをトリガーに、自分でも見れるようになっていた。

 自分で確認してみな。」


 促され、さすがに米俵の下からは出してもらえた、床に直接座り込んでいた勇作さんが、一瞬だけ考え込むような仕草で、ステイタスの確認をした。


 「……」


 顔色が変わる。


 「嘘、だろ。」

 「読んでみな。」

 「……」

 「逃げても事実は変わらないぞ。認めるところから始めないと。」

 「うう……」


 本気で認めたくはないのだろう。

 逡巡して、逡巡して、やっと口にした事実は?


 「スキルが『魅了(微)』で、称号が『プチ支配者』だ。」


 ……

 真面目に酷いな、この世界の神様は。


 つるんでいたから知っている。

 勇作さんは、この世界を楽しんでいる。


 僕も今は助言通り、気を強く持っているのでスキルの影響からは抜けているが……


 確かに勇作さんは偏った考え方をする。


 勇者がありがたがられる世界に戻すために、結界を壊そうとするのもそれだ。


 自分だけが世界の中心で正しく、他の人のことは考えない。


 だからこそ、日本でも孤立していたのに、本人さえ意識しないスキルで、仲間が出来たり、上手く毎日が回り出せば?


 何がいけないのか、考えるチャンスすら無くす。


 つまり今、そう言う状態なのだ。


 ……

 酷いな。

 本当に酷い……


 「あんたは知らなかったとは言え、自分より弱い人をスキルで縛って、自由意思を奪っていたんだ。」


 最終宣告みたいな大崎さんの言葉に、

 「嘘だろ⁉️」

 と、勇作さんが叫ぶ。


 「九八は俺に付いてきてくれたし、現地の人も協力的だったぞ‼️

 それが全部、強制したものなんて⁉️」

 「残念だけど。」

 「嘘だろ⁉️九八‼️」


 勇作さんが僕を見つめる。


 僕は……

 この人のやろうとしていることを、本心から認めてはいない。


 「……」


 黙って首を横に振った。


 「九八……

 くそうっ‼️くそうっ‼️」


 勇作さんが慟哭する。


 「裸の王様だな。」

 と、小さく言ったのは田畑さん。


 仕出かしたことを思えば、許す、許さないなら、『許さない』だろう彼も、くびり殺しそうな殺気は収まっている。


 僕は……

 一般人がレジスト出来る程度のスキルに縛られた、情けない僕は……


 「勇作さん。」


 思い切って手を差し出した。


 「九八?」

 「僕は、『結界を壊したい』とは思えないし、勇作さんの考えには賛同出来ません。

 これまでのことがスキルのもたらした悪夢だったとしても。」


 僕は素の状態でも、いわゆる馬鹿なこの先輩が嫌いじゃない。


 「この先は、間違いなら間違いでしっかり止めます。

 言いたいことも言います。

 だから、普通に先輩後輩、しませんか?」


 操られはしたが、見捨てる気はない。


 それを伝えると、ポロポロ泣いた。


 ただ、許してなかった人もいるみたいだ(まあ、当然だ)。


 「じゃ、美しき男の友情が決まったところで。」


 幸田さんに、2人同時に肩を叩かれる。


 「わたしが守ってきた世界に手を出そうとした罪、これでチャラにして上げる。」


 瞬間景色がぶれた。


 「え?」

 「うわあぁぁっ⁉️」


 オーガの里に放り込まれた(移動魔法)。


 どっと笑い……


 って、笑ってる場合か‼️


 

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