第119話 彼も神様の手のひらの上

 「で?このガキのスキルって、やっぱあれなのか?」

 「そうだね。常時発動の魅了。自分より力が弱いもの限定で気持ちを操る感じ。

 括弧書きで『微』ってついてるけど、魅了は魅了だね。ちびちゃん達、預けに言って正解だわ。」

 「わかってるの?」

 「自分でも無意識でしょ。

 『俺って人に好かれるからぁ』とか勘違いしていたんじゃないかな?

 『やっぱ、俺スゴイ‼』みたいな。

 現に、一般人のちびちゃん達ですら抵抗してたし。」


 なぜか米俵に潰されて……


 一切抵抗できない状態で、勝手に話が進んでいく。


 いや、何言ってんだよ、こいつら⁉


 まったく訳が分からない。


 宿屋で休んでいたところを急襲された。


 俺を襲った金髪女は初めて見る顔だったが、途中から合流してきた仲間の中に、初代勇者が入っている。


 俺が仲間にしていた4号勇者のおっさんに、ならもう1人いるおっさんも多分古い勇者だろう。


 そう言えば、人質がいない⁉


 古い勇者は、俺達の力が微塵も通じない初代初め、強い人が多いくらい知っている。


 だから、人質まで取って4号を仲間にした。

 戦力になるかと思って……


 その4号のおっさんから、さっきから切れ目なく、特大の殺気を当てられている。


 怖い、怖い、怖い……


 俺、なんかしたかな?


 人質はとったけど、傷つけたりしたないし、そんな酷いことはしていないはずなのに?


 彼らが話に夢中になっている間に、必死で小声で『ヒール』を繰り返し、金髪女に壊された腕は完治している。

 のしかかる重みも、いっそ火魔法で焼き尽くすとかすれば逃れられると思ったけれど……

 

 でも、出来ない。


 目の前の敵がハイレベル過ぎる。


 敵わない……


 「多勢に無、」


 『無勢』まで言わせてくれなかった。


 「どの口が言ってる、馬鹿ヤンキー。」

 と、金髪女に口を塞がれた。


 だから、なんで饅頭⁉


 いっぺんに3個とか口に入れるな‼


 普通に窒息出来るわ‼


 ただ、続く声に背筋がゾクッとした。


 「子供達が『抵抗していた』とは?」


 九八だ‼


 九八が普通に話している。


 敵である初代勇者や、兄貴分である俺を襲った金髪勇者と⁉


 えっ⁉

 どうゆうことだ⁉


 いったい何が起こっている⁉


 「この16号のスキルは本当に微弱でね。近くにいる人くらいしか影響されないんだよ。」

 「宿屋の女将さんがつけ払いを認めてくれましたが?」

 「ああ、そう言うの。

 本人は、『俺って魅力的だから』くらいにしか思ってないけど、要はスキルで誑かしていたわけ。」

 「じゃあ、子供達は?」

 「そのままスキルに掛かれば、16号の都合がいい方に誘導されるはずが、感情を殺してたでしょ。

 大好きな4号を裏切りたくなくて、間違ってもクズの16号を好きになんかなりたくなくて、必死でレジストしてた結果だね。」

 「そんな……」


 おい‼

 くそう‼


 勝手なことばかり言うな‼

 九八は俺の大事な手下だ‼


 おかしなことを吹き込むな‼


 本当はこんなこと認めたくない。


 異世界に来て、ステイタスの見方を教えられた。


 そこには称号とスキルが無かったんだ。


 認めたらまた、『特別でない』自分を受け入れなければならない。


 俺は本当はスゴイんだ。

 異世界に召喚された。

 もうそれだけで特別だ。


 本当はスゴイ男だから、九八だって手下になった。


 でも⁉


 このままじゃ……


 「止めろ‼いい加減なこと言うな‼」

 「「「「「⁉」」」」」

 「俺にスキルなんて無い‼」


 言い切った瞬間、気の毒なような、馬鹿にしたような、微妙な表情で金髪女が言った。


 「ああ、あんたも神様のいたずらの犠牲者か。」






 


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