第117話 天然格下大男の間に合わない後悔

 「んじゃ、出ようか。」


 促されて……


 僕は素直に宿を出た。


 田畑さんが、『スピード狂』と呼んでいた。

 彼も多分、召喚勇者だ。


 「俺は3号勇者だ。加藤終。」


 そう名乗って、加藤さんが人質だった2人の手を引く。


 彼らが先頭。

 すぐ後ろを田畑さん。

 更に後ろから僕が続いて、宿を出て20メートルほど歩いた時か?


 劇的な変化が訪れる。


 初めて出会った時、勇作さんに拐われてきた少年少女は、泣き叫ぶことも無く冷静だっだ……


 と言うより、ぼんやりして表情に乏しかったのだ。


 そう言う子だと思っていた。


 しかし、宿屋から一定距離を取れた途端‼️


 急に2人は、キョロキョロと辺りを見回し始め、現状を理解しようと落ち着かない。


 表情が、今までと全然違う⁉️


 瞳に力が戻り、ふと振り返って田畑さんに気付く。


 瞬間、2人は弾かれたように駆け戻った。


 予想していたのかもしれない。

 タイミング良く加藤さんが手を離し、今は何の障害もない。

 子供達は大好きな人の胸に飛び込んでいく。


 「チカラさん‼️チカラさん‼️」

 「とーちゃん‼️怖かった‼️とーちゃん‼️」


 田畑さんは2人を抱き止めながら、こちらも敢えて感情を殺していたのだろう。


 数日間一緒にいたけど、初めて聞いた。

 随分優しい表情と声で、でもひねくれた彼らしい表現で、

 「悪いな、ラナ。おかしなことに巻き込んだ。あと、レオ。俺は『とーちゃん』じゃないぞ。」

 と、少しだけ笑う。


 「あの農家があんな顔するとはな。」


 会話から察するに、この2人は『悪友』と言うヤツなのだろう。


 ニヤリと笑った加藤さんが、

 「で?お前はどうよ?」

 と、振ってくる。


 え?

 僕?


 「スキルの範囲は出たはずだけど。」


 言われて気付く。


 妙に頭がはっきりして……


 そうか‼️

 これは『あの時』と同じだ‼️


 リリムの街で、勇作さんと離れ1人で銀行に行った。

 妙に不安で、自分の道がわからなくなった。

 これでいいのか、と。


 ただ、また勇作さんとつるみ出すと、不安感がぼやけていった。


 「え?これが『魅了』?

 でも、勇作さん、スキルとか称号とか無いって言ってた……」


 目の前では、田畑さんと子供達の感動の再会が続いていて、自分達が何をやらかしたか理解した。


 誘拐には僕は関わっていないが、それは言い訳にならないと思う。


 「まあ、詳しくはいちごさんが……

 あの、金髪姉ちゃんだけど、鑑定持ちだからさぁ。調べてくれると思うけど……」


 加藤さんが言うには、スキルが見えないケースがあったと言う。

 特定の条件下でしか見えなくて、その人はスキルが消える寸前だったそうだ。


 「この世界の神様は意地悪だからさ。

 多分本人も知らないパッシブスキルだ。

 格下限定で操るような。」


 そう言えば、まずつけ払いなんてさせない、この世界の宿屋の女将がそれをさせた。


 勇作さんにはそう言う部分がある。


 なら‼️

 僕も操られているのなら⁉️


 ああ、だから……


 「しっかりしろ‼️」と、殴られたんだ。



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