第116話 真面目に書いていいか、躊躇うようなバトルシーン

 いきなり目の前に、屋根を壊して凶悪そうな金髪女が現れた。


 ニヤァと笑う顔はヤンキー高校生時代、俺をボコ殴りにしたライバル達に似ている。


 「卑怯者のクズ野郎が‼」

 「外道が‼」

 と、罵詈雑言を吐きながら、何回かリンチにあった。


 あの時の恐怖が蘇る。


 人間、本当に一刻の猶予もない危機的状況に陥った場合、魔法ありきの世界なのに、慣れ親しんだ防御手段しか浮かばない。


 スピードの速い魔物に急接近された時も、

 『魔法をたたきつけて撃退する』とか、

 『デバフ系の魔法でスピードを奪い、一旦距離を取った後剣で切り伏せる』とか、やりようはいろいろあったはずが、拳で払うしか出来なかった。


 今回も同じだ。


 「うわっ‼」


 叫んで出したパンチを、女は簡単に避けた上、体ごと巻き取ってくる。


 「えっ?」


 戸惑う間もなく、転ばされた。


 そのまま、腕ひしぎ十字固めを食らう。


 「うぎゃーっ‼」


 嘘だろ、これ?


 見たこともない相手だが、状況から考えて彼女は同じ召喚勇者だ。


 勇者同士の戦いで関節技って、常軌を逸し過ぎている。


 しかも……これって……


 「うわーっ‼離せ、くそうっ‼」


 痛いから、必死で回復魔法をかける。

 なのに痛みは消えない。

 現在進行形で、関節が極まっているから。


 しかも、回復魔法があることを承知だからか?

 女には一切の手加減がない。


 肩関節が、肘が、何回も壊れる。

 頭の中で何かが切れる、ブチブチ言う音が響く。


 「ヒール‼……ヒール‼……ヒール‼‼」


 痛みで精神が千々に乱れているから、本来詠唱はいらないはずの、魔法が思い通り使えない。


 口に出せば使える。


 詠唱する。

 治る。

 壊される。

 また詠唱する。


 ……


 完全な無限ループだった。


 「回復魔法が使える奴に、関節技が最適とはね。」


 気楽なセリフに腹が立った。

 でも……


 無理だ。

 怒っていられる状態じゃない。


 痛い痛い痛い……


 ただ、痛みから逃れようと回復魔法をかけるのみでは、何も解決しないことは、馬鹿な俺でも気付いたさ。


 一瞬でもいいから、痛みを我慢する。


 ブチブチ何が切れているし、叫びたいほど痛いけど、でも、我慢だ。


 火魔法だ‼️

 ファイヤーで丸焦げにすれば解放される。

 そこから改めて回復させればいいんだ。


 相変わらず無詠唱は無理だ。


 「ファイ……」


 言おうとしたが、

 「むぐっ‼️」

 何かを口に突っ込まれた。


 なんだ⁉️


 甘い⁉️


 は⁉️


 「ふはは‼️それは千年賞味期限のある温泉饅頭だ‼️」

 「ほひゃひゃろくだりょ⁉️(もはや毒だろう)」

 「失礼な。草津だぞ。」


 もう、訳がわからない。


 饅頭で口を塞がれて(続けざまに3個入れられた)、攻撃魔法も、ヒールも出来ない。


 何なんだ、これ?

 俺、何か悪いことした?


 微かに、

 「食料召喚。」

 と聞こえた後、関節技が緩んだ。


 次の瞬間、上空から何か降ってくる。


 1つ1つが数10キロありそうな、塊?がドスドスと。


 詠唱は相変わらず不可で、怪我を治すことも出来ないまま……


 普通なら意識が飛ばせそうな、数100キロの何かにのし掛かられて、動けない。


 勇者の体力が逆に災いした。


 逃げることも、気を失うことも出来ないまま……


 沈没。

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