第112話 勇者が2人しかいなかった頃
俺がアルスハイドに召喚された時、『先輩』勇者は1人だった。
背の小さな、小学生でも通りそうな童顔の女性。
彼女は俺を『3号』と呼んだから、間の『2号』が見当たらない。
聞きたかったが……
おそらく質問してよい話では無かろうと、おおよそ見当もついていた。
……
あの頃の千夏さんは、今と同じで飄々とした態度を崩さなかったが、自分自身も異世界に連れてこられて1年少し。
迷いも、葛藤もあったと思う。
それでも何とかしたくて足掻いていた。
今より更に笑わないから、習い事や親からの期待に疲れた、小学生みたいだった。
……
さすがに伝えたことはないよ。
間が悪い俺でも空気は読む。
言ったら怒られそうだと思った。
大体、
『今日から勇者だ』と言われても、俺には剣道や薙刀などの武器を使った経験も、ボクシングや空手など立ち技といわれる格闘技を習った経験も、無い。
寝技系は……
魔物相手に使いたくないし、勿論未経験。
小説や漫画ならうまくいくが、出来ないものが出来るわけない。
いや、『勇者』補正で、真似事が本物になるので余計怖かった。
ブンと剣で魔物を切ったが……
切れるよ、一応。
でも、『残心』とか知らない人間が剣を扱って、さらに想定以上に切れるのだ。
勢いで自分の足を切りかけた。
怖っ‼
異世界、油断ならない。
特にアルスハイドは酷い。
人間は魔物に対して、圧倒的に無力だ。
『災害』みたいな感覚でいいの?
『災害』で、わけのわからない生物に殺されて、餌にされていいの?
たった2人だけの勇者。
間に合わない、手が届かないことの繰り返しで、さすがに気分が滅入ってくる。
相手がドラゴンなら、まだマシだ。
多勢に無勢じゃない。
1対2……
いや、実際は竜種に圧勝出来るのは千夏さんだけだから、1対1だ。
そこまでで失われた命は戻らないが、現場につけば千夏さんが倒す。
俺は『スピードスター』だからな。
走り回って人を救った。
結局あの頃は、そういうやり方しか出来なかったのだ。
オークキングが率いるオーク50体ほどが、南方の村を襲ったことがある。
戦うのは千夏さんだ。
50対1。
多勢に無勢。
それでも着実に敵を減らした。
俺は村中を駆け回って、虫の息でも、生存している人は助け出す。
回復魔法のある世界だ。
辛うじて、『生きていて』くれれば助けられる。
周囲から生存者がいなくなれば、勇者プラスの強烈な範囲魔法で一気に吹き飛ばすことも可能になるし。
その後、4号、5号、6号、7号くらいまで、俺はひたすら救助隊をした。
戦力が増えて、フレンドリーファイヤーの危険性だけ考慮すれば、数の多い魔物の襲撃にも応えられるようになる。
戦場になった村から、町から、人を救う。
スピードスターの能力は、狭い範囲で動き回ると、ほぼ瞬間移動と呼べる速さになる。
今回はこれを使うようだ……
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