第108話 卑怯者の甘い見通し

 「なんで逃げて帰ってくんだよ⁉️常勝なんだろ⁉️」


 ついつい大声をあげる俺に、新しく仲間にしたおっさんは、ヘラヘラした態度を崩さない。


 俺は、中性的な見た目だし、迫力と言うか、威圧感に欠ける。


 わかっているし、自覚があるだけにムカつく。


 「ガキか、お前は?」

 と、笑った。


 「俺の『常勝農家』は、『無敵』って意味じゃないぞ。」

 「ああっ⁉️なんで⁉️」

 「当たり前だろ?

 全てに対して『無敵』なら、他の勇者はいらないさ。

 ある1点……今回はお前が言う、絶対壊せない障壁に対して無敵だから、他には無防備だ。」

 「くっ……」

 「召喚勇者3人もいて、俺1人じゃ勝負にならんさ。」


 ……

 理屈は通っている。

 ムカつく……


 せっかく人質をとったのに。


 今俺達は、王都の市場の隅にある、宿屋にいる。

 拠点に決めた。

 その宿屋で1番広い部屋で、家族用だ。


 部屋の奥には中学生くらいの女の子と、3歳くらいの男の子が、ぼんやりと座り込んでいる。


 おっさんが大切にしている同居人だ。


 九八はここから動かない。


 俺は『常勝』の称号持ちの、4号勇者を仲間にしようと画策して、独断で2人を誘拐した。


 最初は大騒ぎだった2人は、諦めたのか?

 呆然としたまま過ごしている。


 俺は力は弱い。


 なら、頭を使う。


 こう言う時は、目的とする相手の大切な何かを巻き込むのが常套手段で、殴って痛め付けたり、女なら汚したり、相手にダメージを与えるものだが……


 「もしそれをしたら、僕は勇作さんの下を離れます。

 許しません。」

 と、九八に言われた。


 俺は……

 九八だけは切り捨てられない。


 だって、そうだろう⁉️


 俺は日本のヤンキー時代から卑怯者扱いで、馬鹿にされ、侮られてきた。

 

 俺は本当はスゴいのに、誰も理解を示さなかった。


 九八は俺にとって初めての部下で、しかも自主的に仲間になった、稀有な存在。


 九八に見捨てられるのだけは嫌だったのだ。


 九八は子供達から離れない。


 俺を疑いだしている。


 それだけは嫌だ。


 嫌だけど……


 なら、おっさんに付いていく『誰か』は、俺と言うことになる。


 おっさんが1人では、話が進まないのはわかった。


 でも、俺が1人で同行すれば敵わない。


 認めたくないが、おっさんの方が強い。


 なら、どうする?


 おっさんが曲がりなりにも俺達に従っているのは、人質をとっているからだ。


 しかも、実際は違う意味だが、九八が常に見張っている。


 ただ、この場から離れて2人になったら?


 『俺に手を出せば人質がどうなるかな?』

 と脅せない。

 

 だいたい何かあっても連絡出来ない。

 

 携帯がない。


 どうしたらいい?


 「くそっ、明日だ‼️明日までには考える‼️」


 卑怯が信条。

 策を練れば勝てると思った。


 明日まで……


 俺はどこまでも危機感が足りない、小物だったと、後で気付く。

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