第106話 現れた3人目

 その日、『鉄壁』を張り直しに来た世奈さんに、15号と16号の接近を聞いた。


 あの2人に仲間が?


 18号である僕は、15号、16号と活動時期が被る。


 やたら自信満々で偉そうだった16号と、大男なのに身を縮めて、そこに従っていた15号。


 日本でヤンキー高校に通っていた、あの頃を思い出す光景だった。


 自らの世界の王様達は、学校内では恐れられたり、時には立てて貰えたり、気分よく過ごしていた。


 同じ学校のパンピーは、奴隷であり財布。


 やられた側とすれば冗談ごとでは無いのだが、だからと言ってその地位が、校舎外で通じるかと言えば、『否』だ。


 普通の人は、彼らを腫れ物扱いで近付かない、目を合わせない。


 『馬鹿』に直接『馬鹿』とは言わず、遠巻きに、それと分からないように馬鹿にしていた。

 馬鹿達は気付かない……


 召喚勇者の世界でも、同じことが起きていたのに⁉️


 話し掛けられれば普通に会話するが、誰も好んで、2人に近付くことは無かった。


 その2人に仲間が増えた⁉️


 あり得ない。


 いったい何が起こっている⁉️


 「キャーッ‼️」


 考え込む耳に、届いたのは悲鳴。


 世奈さんだ‼️


 世奈さんは真面目で、年齢(なんと僕より下だ)より落ち着いている。

 あまり、

 『キャーッ‼️キャーッ‼️』言うタイプではない。


 何か起こっていると直感した。


 「健介さん‼️正直さん‼️

 リーシャを‼️」

 「おう‼️」

 「任せろ‼️」


 2人にリーシャの護衛を頼み、僕は教会(もどきで、実際は『結界発生装置』で『勇者返還装置』の建設現場だ)の庭に走り出たのだ。


 まず目に入ったのは、腰を抜かしたように座り込む世奈さん。

 驚き過ぎて目を見開き、原因を指し示しながら、それでもしっかりハイを抱えている。


 『ああ、お母さんなんだ……』

 と、思った。


 親に愛されなかった自らを思い胸がズキッと痛んだが、そんな場合では無いと思い直す。


 「くそっ、結構しっかりしてるな、これ。」


 初めて聞く声にギョッとして、目を向けた先は、世奈さんが示す先とイコールだ。


 「⁉️」


 『鉄壁』を抉じ開けようとする男がいる。


 ……

 見たことのない男だ。


 いくら僕のコミュニケーションに難があるとはいえ、同じ時期に戦った召喚勇者なら、顔くらい覚えている。


 彼は知らない。


 恐らく古い召喚勇者だ。


 ……

 ただ、勇者であることは決定‼️


 超常の存在以外、世奈さんの『鉄壁』は壊せない。


 勇者プラスの千夏さんも、もちろん僕も、パワー特化のいちごさんも壊せなかった。


 『鉄壁』は、透明な『防弾ガラス』と言うか、そう言う障壁みたいなものだ。


 男はまるでビニールの壁を強引に引き裂くように、見えない壁に手をかけ、ただ、実際はビニールみたいに柔じゃないから、ジリジリと力付くで穴を穿つ。


 男が無茶苦茶をしているから、見えないはずの『鉄壁』が、揺らぎと共に見えている。


 『結界発生装置』を守る、大切なものが壊されようとしている。


 ……

 僕は、暴力は苦手だ。

 振るうのも、振るわれるのも。


 在原君に苛められた時も、防御はしたが殴り返してはいない。


 ……

 今考えると、殴り返していれば何か変わったかもしれない。


 でも、殴り返せない。

 それが『僕』なのに‼️


 自分自身よりも大切に思う。


 『この国の人を守る結界を‼️』

 だと、格好良過ぎる。


 僕は僕自身すら守れない小さな手で、守ると誓った少女のために‼️

 

 『鉄壁』の破壊は、リーシャに危害が及ぶことだ。


 それだけは許さない。


 ならば、戦え‼️


 「来るなぁ‼️」


 格好のいい台詞は言えない。


 子供の癇癪みたいな叫びと共に、僕は火魔法を放つ。


 男は、丁度顔の大きさくらいまで、『鉄壁』に穴を開けた。


 これ以上はさせない。


 勇者プラスの本気だ。


 辺り一面の魔物を殲滅する強力過ぎる範囲魔法を、真っ直ぐ『鉄壁』の穴に、侵入者の顔面に絞る。


 業火が男に迫る。


 ……

 ただ、魔法を放ってから、選択をミスったと思った。


 一刻の猶予も無いなら光魔法だ。


 火魔法は遅い。


 いや、『光』より遅いと言う意味で、普通の人なら避けようがない。


 でも、勇者なら避けられる。


 ヤバい‼️


 ただ、何故か男は避けなかったのだ。

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