第104話 色付く世界と、落とし穴

 『勇者が暴れまわっている』と聞いて……


 すぐに4号を思い出した。


 4号は何に対しても真っ直ぐで、そして良い両親だったのだろう、真っ直ぐな愛情と正義感を持っている。


 かつて、わたし達がいた世界も『正しい』ばかりじゃ無かったけれど……


 アルスハイドは酷い。

 中世程度の不平等社会。

 

 いや、そんな中でも人は伸びやかに、強かに暮らしていたが、例えるなら選挙で、

 『平民1万人はAを支持したが、Bは貴族の○○が支持してるから、Bが当選』みたいな当たり前にはうんざりする。


 しかし、ここは異世界で、わたし達は異分子だ。

 生活を豊かにしたり、ちょっとした知恵の伝搬は構わないが、社会を根幹から揺るがす部分には関わるべきではない。


 そう思ってはきたものの……


 今回の騒動の結末はわたしが着けた。

 

 任せていたらいつまでも解決しない気がするし、なによりリリム『子爵』を、それ以下にするのも面倒だ。

 

 職場放棄の怠慢が何を怒らせたのか、恐らく理解出来たから、まあいいか。


 あとは反省し、まともに領主をしてくれることを切に祈る。


 「東区区長一家は借金奴隷とする。」


 『死刑』どころか、『犯罪奴隷』より軽い『借金奴隷』。


 呆気にとられるリリム『子爵』に、

 「軽いと思うなら間違いだよ」と、薄く笑う。


 失った命も、失った尊厳も戻せない。


 被害者には実害の3倍の賠償を、資産全てとりあげても足りないだろうから、不足分が借金となる。


 この世界の奴隷に人権など、無い。


 他人を蔑み奪い取った代償は、他人に蔑まれ、抜け出せない、底辺を這いずり回るだけの地獄の一生だ。


 失われた命には、彼らの苦しいだけの生涯を持って、せめてものお悔やみにさせてもらおうと思う。


 「嫌だ‼️なんで、俺まで⁉️」

 「私は関係ないわよ‼️」

 「何をする‼️ワシは貴族だぞ‼️」


 引き立てられて、区長一家は見苦しいほど取り乱して、行った。


 その両親は、平民落ちにさせてもらう。


 成人して、家庭を作った息子の連座では気の毒な気はしたが、彼らは粛々と受け入れた。


 ……

 親は立派だったらしい。


 やるせない。


 手下のチンピラ、モルとアルフレッドは犯罪奴隷。


 「ちょっといいか」と、力が口を出し、2人の最初の労働を決めた。


 最後の被害者である、少女の家の現状復帰。


 調子に乗っていたとしか思えない、彼らは無駄に家具を壊し、皿を割り、道具類を踏みしだいていた。


 「買い直すことは許さない。どの物にもラナが父親と暮らした思い出が積み重なっているんだ。お前らがしたのはそう言うことだと噛みしめながら、砕けた皿まで正確に繋げ。」


 それは賽の河原並みの苦行だったが、アルフレッドの方は真っ直ぐに受け止め、寝る間を惜しんで努力した。

 せめてもの償いだ。

 何1つ償えないと知った上で、それでも頑張り続けた。


 モルの方は、見張りもいたのでやっているふりだ。

 ただウダウダと半年過ごし、やっと少女に家を返せた後、アルフレッドは罪を免じられ、モルはそのまま鉱山送り、1か月後落盤事故で死んだらしい。


 本気で性根が腐っているタイプなら、その死はある意味本望だったのかもしれない。


 そう思った。


 ラナとレオの2人の子供は、そのまま力の家に居ついてしまった。

 

 力の農作業を手伝って、家事などをして日々過ごしている。


 ラナの方は、継ぎ接ぎながら家も返ってきて、法外な賠償金も得た。

 ある意味資産家になったわけだが、それでも力から離れなかった。


 力は、いつも帰りたいと言っていた。


 わたしも一応帰りたい。

 召喚9年。

 長すぎる時の流れに半ば諦めてしまっているが、力は変わらず帰りたい。

 家族の元に帰りたい。


 多分1番アルスハイドと仲良くなれていない、勇者筆頭だ。


 勇者時代は、魔物からこの世界の人を救いながら、心は遠く離れていた。


 引退した後は、農家をしながら生活する以上、無関係ではいられなくなる。

 少しずつこの世界と関りを持ち、けれど今なお遠かったのに。


 守るべき2人の同居人を得て、少しだけ力の気持ちが和らいだ気がする……


 アルスハイドに結界が出来た。


 お騒がせ30号、大崎いちごが召喚された。


 坂谷世奈、山田朔夜達、悠木ほむら、加藤終、周雨月らと連携して、わたし達がこの世界から帰る方法を探し始めた頃……


 力の方でも事件が起こる。


 ラナとレオが攫われた。


 日本語で書かれた、置き手紙がある……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る