第102話 世界が壊れる音がする

 「ここの家の住人が借金をしたままいなくなったからだ‼️」


 絶対に言ってはならないセリフを、区長が声高に叫んだ時。


 「‼️」


 何故だろう?

 胸が潰れるように痛かった。


 不思議だ。

 オレは別に、区長のことを気に入っている訳ではない。


 街のチンピラであり、欲しいものは盗んででも手に入れるし、それで相手が路頭に迷おうと、死んだところで構わない。

 

 オレと区長はそこが同じで、けれど『育ち』だけは決定的に違った。


 平民の息子であるオレと、『騎士爵』の息子である区長。


 子供の頃は、手に負えない強者に挑み袋叩きにされたり、大人達に躾と称して殴られた。


 オレは何度も負けてきたが、多分区長は違うだろう?


 負けたことがない人間が負けてしまい、起こるだろう混乱を、同族嫌悪の悪感情を越える同情が襲った……

 そんなところか?


 「ワシにこんなことをして許されると思うな‼️

 ワシは貴族だぞ‼️」


 膝を砕かれた痛みで涙でグチャグチャになりながら、それでも守ろうとするチッポケなプライドからの叫びだ。

 

 情け容赦無く、勇者が折る。


 「そうか。随分偉いんだな、お前は?」

 「当たり前だ‼️貴族だぞ‼️」

 「貴族なのに、勇者は準王族、公爵と同格だとさえ、知らないんだな。」

 「‼️」


 その言葉に、区長の顔色が変わる。


 知っていたのを思い出したのか、知らなかったのか、わからない。


 けれど、地位や特別に拘る男だ。

 敵わない、どうにもならない相手を怒らせたと、やっと気付いたようだった。


 その後、勇者の指示で若造が連れてきたのは、区長の家族。

 父親、母親、妻に息子らしい青年だった。


 「お前らはこの男が、他人の財産を不正に奪い、結果誰かが死ななければならない、それすらも気にしないクズ野郎だと知っていたか?」


 「「「「知らない‼️」」」」


 全員一斉に叫んだが、息子のあんまりな本性に泣き出しそうな老夫婦は光らず、同じく悲痛な演技をした、妻と息子は赤く光った。


 「アウトだ。」


 セリフと同時に落ちた雷(魔法?)が、2人を襲う。


 「カリナ‼️セオドア‼️」


 こんな男にもあった人間的な感情で区長が叫び、

 「女子供……子供って年でもなかったが、いたぶる趣味は無いからな、俺は。

 まあ、死なない程度に手加減はしてやった。どうせ、犯罪奴隷だ。」

 と、勇者が吐き捨てた。


 2人は崩れるように倒れ、起き上がらない……


 「おい、お前。」


 勇者が若造に声をかける。


 「はい。」


 幸せな馬鹿は、燃えるような目をしている。

 怒っている。

 そんな資格さえないのに、怒ることが出来る愚かさと純粋さが、少しだけ眩しく思えた。


 「お前、馬には乗れるか?」

 「はい。」

 「なら、今から王都に走れ。タウンハウスに行って、リリム?、この地の領主を連れて来い。」

 「え?でも、俺が行っても?」

 「ああ。

 あったことを全て伝えて、勇者が暴れまわっていると言え。

 それで来なけりゃ、領主失格だ。」

 「わかりました‼️」


 若造が駆け出していく。


 「ま、こう言う展開になれば、聞き付けてあの人が来てくれるだろう。」


 勇者が呟いていた……

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