第101話 魔物以下の人

 リリム伯爵に東区区長を任されてワシは、

 『これはチャンスだ』と思った。


 うちは騎士爵。

 爵位を得たのはワシの父で、1代限りの下っ端貴族ゆえ、彼が死ねば平民に戻る。

 

 いや……

 嫁をとり子をもうけ、新たな代である以上、すでに平民と変わらない。


 父が生存している間、慣例で『騎士爵家』と呼ばれるだけだ。


 ワシはこのままでは終わらない、終わりたくない。


 貴族位は金で買える。


 1番下の『男爵位』だが、それでも『騎士爵位』より上だ。


 実はこの手の事件はままあって、我が領に当てはめれば、伯爵の財産から簒奪する、これがよくあるパターンだった。


 ほとんど成功しない。

 相手の爵位で刑罰も変わるが、最悪公開処刑の可能性まである、重犯罪だ。


 だから、ワシが目をつけたのは平民だ。


 効率は悪いかもしれないが、奴等も生意気に溜め込んでいる。


 商会などは潰せば目立つし、影響が大きい。


 ただ、さすが目端のきく商人どもで、ワシの気性に素早く気付き、折に触れ賄賂を寄越す。


 有益だ。

 大手とは、そう言う関係を続けよう。


 ワシがメインターゲットにしたのは、個人だ。

 溜め込んでいそうな行商人にあたりをつけて、難癖をつけて、その財を奪った。


 あと少しだ。


 裕福な暮らしを望む妻子に金がかかり、予定より長くかかったが、次の儲け次第で『男爵』になれる。


 個人資産で塩を買い付けに行っている、行商人が戻らない。


 チャンスを逃すわけにはいかない。


 手下のモルとアルフレッドを連れて、残った娘を追い出した。


 これでなれる。


 ワシはなれる……


 ……


 なれると、思ったのに……


 「なんだ⁉️どうした、アルフレ‼️」


 皆まで言わせて貰えなかった。


 突然、半泣きで執務室に駆け込んできたアルフレッドに、力一杯殴られて意識が飛んだ。


 「よう。やっと来たか、区長。」


 気付いたら、数日前取り上げた行商人の家の前に転がっていた。


 見たことが無い男が残忍な笑いを浮かべ、その足元には暴力を受けたらしい、ズタボロのモルが倒れている。


 寒気がした。


 「なんだ、貴様⁉️ワタシを東区区長と知ってのことか⁉️」


 必死の虚勢だ。


 大声で叫んだ途端、

 「知ってるさ。」

 冷たい声と、地面に足を投げ出して座るその間に、バシッ‼️と音を立てて『落ちる雷』。


 「え?……魔法?」

 「そうだ。俺は召喚勇者の田畑力だ。」


 男は名乗った。


 「勇者⁉️

 勇者は人を守るものだぞ‼️

 勇者が人を傷付けるなんて⁉️」


 必死の叫びは馬鹿にされる。


 「あ?

 確かに勇者は魔物を倒し人を守るけど、な。

 魔物以下の馬鹿まで守れなんて、言われてねえぞ。」


 スタスタ近付いてきた勇者が聞いた。


 「なあ、区長。お前は一体何の権利があって、この家を取り上げた?」


 視界の隅で、手下のモルが必死で何かを伝えようとしていた。


 「ここの家の住人が借金をしたままいなくなったからだ‼️」


 言い切った途端、体が急に赤く光る。


 「はい‼️アウト‼️」

 「うぎゃあぁぁぁっ‼️」


 片膝を踏み潰された。

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