第98話 どこの世界にもロクでもないヤツはいる
「失敗したなぁ。」
思わず口から出てしまった。
お茶畑のすみに、中学生くらいの女の子と、その弟なのか、3歳くらいの男の子が倒れていた。
召喚勇者をしていた頃は、同じ召喚勇者達と、王宮関係者くらいと付き合えば良かった。
どこかの村を助けたところで、その一瞬だけ、深い交流を持つ訳じゃない。
ただ、引退し在野に下ると言うことは、少なからずこの国の人に関わる必要がある。
俺達はイレギュラーだ。
この国の人間では無いし、いつか必ず帰りたいとさえ思う。
なら関わるべきでは無い。
けれど在野に下ったことで、買い物など、どうしようもない部分では町に行った。
恐らく俺を、
『好き好んで町の外に住む無頼漢』くらいに認識しているだろうし、それはそれでいい。
適度な距離感、くらいに思っていたけど……
けれど、今回はガッツリ助けてしまった。
痩せ細り……
特に男の子の方が酷かったが、明らかな面倒ごとの予感を、しかし放っておけるほど冷たくはなれない。
男の子は、そんな極限状態なのに、姉に食べさせようとしたのか、必死でパンを握りしめ、女の子の口に押し当てていた。
なんとなく、この姉弟が気に入ったのだ。
俺は2人を家に運んだ。
城塞都市の外の、俺が自分で勝手に造った掘っ立て小屋だ。
明らかな栄養失調だか、本人達が気が付き自分の口で食べるまで、気休めでヒールをかけておいた。
さて、助けたもののどうしようかと悩む内に、
「ん?……あれ?」
女の子の方が気が付いた。
知らない部屋の、知らない寝具で眠っていた、今の状況が理解出来ない。
ワチャワチャしていたから、声をかける。
「おう、起きたか?」
「あ……」
「覚えているか?お前ら、俺んちの茶畑に倒れてたんだ。」
「え?町の外に住んでるの⁉️」
意外なところに食いついてきた。
きょとんと目を見開いた少女は、
「あ‼️あれ⁉️あの子は⁉️」
と、キョロキョロする。
「一緒に寝てるよ。」
「あ……」
隣に男の子の姿を見つけ、ホッと息を吐く。
「あの子って、弟じゃないのか?」
「違います。あの子は……」
説明されて驚いた。
2人はまるで赤の他人だ。
託された。
ただそれだけで、手をとったのだ。
「まあ、起きたのなら飯にしよう。」
「え?でも、ワタシ達お金が……」
「ああ、別にいい。
でももし気になるなら、俺が新しく作ったトウモロコシ食ってみてくれ。
感想を言ってくれればそれが対価だ。」
しばらく満足に使えなかった、胃腸を驚かさないために用意したのは?
野生種のベリーを種に酵母を作った、普通より更に柔らかなパンに、野菜を煮崩したスープ。
ちなみにスープの出汁は、キラーラビット……獰猛なウサギの魔物だ。
肉は明日朝の麦粥になります。
男の子も起き上がり、
「うまい‼️」
「旨い‼️」
と、大騒ぎで食べた。
腹がふくれれば眠くなる。
「疲れてるんだ。寝ろ。寝ろ‼️」
俺は2人をベッドに寝かし、ラナに聞いた事情を思う。
ああ、食べながら聞いたが2人の名前は、女の子のラナで、男の子はレオ。
どこの世界にも悪いヤツはいる。
ラナはそいつに騙されたらしい。
俺は召喚勇者だからな。
強過ぎる力を人に対して使わなかった。
でも……
今回は……
アルスハイドの人は勘違いしている。
勇者は魔物にのみ強い、わけじゃないぞ。
翌日のリリムで起こった事件は。
正義の味方である勇者の新たなる一面として、ちょっとばかり話題になるのだ。
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