第86話 鳩君達とほむらさん

 「ん?今回は鳩君達、出てかないなぁ。」

 「あ‼️それなら、明日も分かれて帰ろうよ、世奈。

 多分今度はアタシのとこ来るから。」

 「いいけど。」


 夕食時の『鳩君予報』を聞いて、アタシは俄然やる気になった。


 召喚されて丸1年、引きこもりをしたアタシに言われたく無いかも、だが。


 何故千夏が、あんなにも鳩君達を嫌うのか、少しわかった気がするのだ。


 貴族街の孤児達にも会い、改めて思うのは、

 『この世界の普通はあまりに酷い‼️』と言う点。


 いや、日本でもあるよ?

 事故や災害、稀に犯罪によって、家族が全滅、1人だけ生き残る‼️などの悲劇が。


 でも、珍しいから話題になるのだ。


 ここ、アルスハイドでは、当たり前の話。

 よくありすぎて、公的支援も届いていない。


 そんな人々がやっと手に入れた、『結界がある=魔物に何も奪われない』幸せを、自分の都合で破壊しようなんて、絶対に許されない。


 千夏は最初の召喚者だ。


 仲間が1人もいない中で勇者活動を始めた人で、出来ることと出来ないこと、救えた命と救えなかった命を数限りなく見てきた筈だ。


 その思いごと踏みにじろうとする鳩君達は、やはり簡単に許せる存在ではない。


 「じゃ、明日の準備ってことで。

 ラッキーレイン‼️」


 アタシは、溜め込んでいた『運』を解放する。

 一気に残量70パーセントあたりまで持っていったので、召喚勇者仲間どころか、近くを通っていた王宮騎士やメイド達にもラックが降り注ぎ……


 『想っていた人に告白された‼️』

 『家族中が忘れていたタンス預金が突然発見された』

 『探していたブレスレットが見つかった』など、小さな?幸運が連発した、そうだ。


 翌朝、世奈と分かれて元伯爵邸を出ると、すぐに鳩君達が接触してきた。


 馬鹿だろう、この人達。


 「おい‼️九八‼️

 こいつは触れるぞ‼️」


 顔だけはキレイなんだよな、こっちの子は。


 鳩君(小)が肩を掴んできたので、鍛えていた風魔法を発動する。


 「シールド。」

 「うわっ‼️」


 反射で引っ込めた鳩君(小)の腕が、スッパリ大きく切れている。


 この魔法は、風魔法も極められるらしい、アタシが作った。


 風を自分の回りに渦巻かせ、その中にウインドカッターを仕込んだ。

 風の刃。


 回復魔法があるらしいから、多少手荒にさせてもらうよ。


 情けなかった自分への八つ当たりでもあるから。


 先に謝っとくわ、ごめん。


 「くそ‼️九八‼️

 お前なら行けるだろ⁉️」


 切れた腕を回復しながら、鳩君(小)が(大)に叫んだ。


 ふーん。(大)は、九八って言うんだ。


 「あ……うん……」


 大きな体で気弱そうな声の彼は、構わずシールドに突っ込んで来た。

 カン‼️カン‼️と、ウインドカッターが弾かれるから、硬化のスキルなんだろう。


 シールドを抜けて、明らかに申し訳なさそうな顔がはっきり見えた。


 ああ、まったく……


 「あなた、つく相手間違うと、致命傷だよ。」


 小さく言って、スキル発動。


 瞬間、鳩君(大)が崩れ落ちる。


 「え⁉️九八‼️」


 ああ、そんな感情があるのなら、もう少しまともな道を探さないと。


 アタシは今では、自分の意思でラッキードレインを発動できる。

 もちろん格下限定だが、やっぱり彼らは『格下』だった。


 「うわっ……」


 効果範囲を広めたので、遅れて鳩君(小)も倒れた。


 限界まで『運』を吸う。


 運を吸いとられている間は、猛烈な脱力感に苦しむのは、終で実験済み。


 「げっ。95パーセントにもならなかった。終の所行こ。」


 「今限界まで運を吸い取ったから。砂利でも転べるから、気を付けてね。」

 倒れたままの鳩君達に警告し、アタシは終の店に向かった。


 王都を出るまでに100回以上転び、お金も半分以上落として、だるくて宿屋で寝たきり、1週間だった、と。


 あとから聞いた(笑)


 

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