第85話 鳩君達と世奈ちゃん

 「昨日遅く、鳩君達がまた来たぞ。」


 朝食を食べながら、半分笑っていちごさんが言う。


 鳩君?


 ああ、ヤンキー勇者さんか。

 結界を壊そうとしているって言う……


 魔力感知で、王都への侵入を掴んだようだ。


 「取り合えず、世奈の『鉄壁』には対抗しようがないとは思うけど。って言うか、私や千夏すら突破出来ないし、ね。

 ま、気を付けてな、2人共。」


 ほむらさんと2人、大きく頷いてみせたのだ。


 そう言えば、うちは『気配感知』のスキルが取れた。


 なんで?と思ったけど、多分ハイを妊娠中、いつ親にばれるか、ビクビクしていたせいだと思う。


 嫌な理由だけど……


 異世界に来た、今現在は役に立つので、まあいいか。


 貴族街孤児院に朝食を届けに行くと、付かず離れず、いや、尾行が雑で丸見えの状態で、男性2人が付けてくる。


 「やっぱ馬鹿でしょ、あいつら。」


 いやいや、キツイよ、ほむらさん。


 まあ、確かに馬鹿かもしれない。


 雑々の尾行。

 本当に、何がしたいか分からないな。


 「あ、世奈ちゃんとほむらちゃんだ‼」

 「ハイもいるぞ‼」

 「おう‼」

 「お早う‼ごはん持ってきたよ‼」


 伯爵邸跡に入ると、子供達も飛び出してきたし、好機と見たのだろう。


 「行くぞ‼」

 「あ、うん」と、15号と16号が飛び出してきて……


 「うわっ‼」

 「ぎゃっ‼」


 鉄壁に当たって、尻もちをついた。


 ……

 懲りないなぁ。


 「何あれ?」と聞いたソラン君に、

 「ああいう変な人がいるから、外出はしないでね」と、笑顔を向ける。


 「はーい‼」

 「分かったぁ‼」


 元気な返事をいっぱいもらった。


 子供達は、先日、最初の伯爵邸の荷物を換金した。


 千夏さんと、ある程度目利きもできる終さんが付き添って、1人当たり金貨1枚になったらしい。

 金貨1枚って言うと、10万円くらいだ。


 現金をもらったし使ってみたいだろうが、しばらくは我慢してもらおう。

 邸宅の整理も、まだまだ半分以上残っているし。


 うちは、中学までは女子校で、高校から初めて共学、そしてどのみちお坊ちゃん・お嬢さんの私立校だ。

 ヤンキー君を間近で見るのは初めてだった。


 「くそう‼おかしな障壁張りやがって‼」


 慌てて逃げていく1人は、女の子みたいにきれいな顔を、憎々しげに歪めていた。

 あの睨むような、歪めた顔がヤンキーなのかな?


 「……」


 もう1人はスポーツ選手みたいな大男で、けれどペコペコ頭を下げながら逃げていく。

 こちらは常識があるのかもしれない。


 2人を見送っていると、ほむらさんが言い出した。


 「ねえ、世奈。」

 「ん?」

 「帰り、敢えてバラバラに帰ろうよ。」

 「え?」

 「そうしたら、どちらかに特攻かけてくるよ、あの鳩君は。」


 そういうものかと思う。


 ほむらさんも、うちも王宮に戻るだけだったが、元伯爵邸を出て左右に分かれる。


 気配感知で分かっている。


 予想通り、2人はうちをつけてきた。


 おそらくベビーカーを押した子連れだし、与しやすいと思ったのだろう。


 「よし‼あいつを人質にとるぞ、九八‼」

 「あ……うん……」


 あまり馬鹿馬鹿言っちゃ可哀そうだと思ったけど。


 計画は話してくれなくてもいいよ。


 うん、困った人達だ。


 うちとハイを捕まえるつもりで飛び込んできた2人は、当たり前だが自分達にも張っている、鉄壁の障壁に阻まれて倒れた。


 うん、……学習しよう……


 「なんだ?これ?まさかこいつがバリヤーの?」


 慌てる鳩君(小)に言う。


 「そう。うちが鉄壁のスキル持ちの勇者29号ね。」

 「え?」

 「くそう‼卑怯だぞ‼」


 「馬鹿なことばかりやっているなら、もう1枚鉄壁で壁を作って、そのまま挟んで千夏さんのところに連れていくけど?」


 どの面下げてのセリフに、少しばかりイライラした。


 脅かすと、

 「ひぃぃぃっ‼」

 「ゴブリン村は嫌だぁ‼」と、転がるように逃げていった。


 この先の面倒を避けるためには、いっそ捕まえればよかったと後悔したが……


 後の祭りだった。


 






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