第84話 召喚勇者16号 和泉勇作
異世界に召喚された時、
『やっぱり俺は特別な存在じゃないか』と、実感できて嬉しかった。
周囲の奴らは言う。
「3年の和泉勇作(イズミユウサク)?あれはクズだろう?」
「自分を強いと思っている勘違い野郎。」
「卑怯もので、手段を選ばねえ。怖いのはそこだけだ。」
違う違う‼
俺は本当に凄いんだ‼
凄過ぎるから、周囲が付いてこれないだけだ。
実際体格では劣っている。168センチ、51キロ。
面と向かっては脳筋野郎に勝てないじゃないか‼
だから不意打ち、闇討ちを多用する。ただの利口な戦術だ。
「なんだぁ?男ぉ?女ぁ?」
召喚直後に聞いた暢気な声。
俺の見た目は中性的で、背の高い女で通る外見が最大のコンプレックスになっている。
正直腹が立った。
外見で判断されるのが1番むかつく。
殴りかかるところだったが、声の主がいわゆるマントに王冠姿、おそらく召喚主であるこの国の王だと気が付いたから……
辛うじて止めた。
俺は空気も読める。
アルスハイドは魔物の森に囲まれた国で、そこから入り込む異形達が人々を苦しめていた。
殺したり、食ったりだ。
うん、やっぱり日本とは違う。
俺にはステイタスが与えられ、これが『勇者』と言うことだろう。
今まではもちろん使えなかった、数々の魔法が備わっていた。
「あはは‼」
ウインドカッターでゴブリンがまっぷたつになるよ。
「あははは‼」
オークの首もスッパリ切れるよ。
面白い‼これ、面白い‼
散々遊んで、俺の強さを知らしめて、さらに住民に感謝される。
この世界では俺を悪く言う奴なんていない。
異世界最高じゃないか?
日本の感覚を残している、勇者軍団からは引かれていたと自覚している。
けれど、手下も出来た。
俺の前に召喚された中川九八は2学年下で、しかもなヤンキー校の出身だった。
喜んで俺の下についてくれたよ。
誰かとつるむのも初めてだ。
俺が見るには、初代勇者が特に感謝されている、これは間違いだと思うのだ。
「よし、初代を殺そうぜ、九八。」
「いや、止めましょうよ、勇作さん。」
国民の尊敬を集めている、初代勇者を闇討ちした。
物陰から飛び出して、致命傷の一撃を……具体的には刃物で刺そうとして、簡単に避けられボコボコにされた。
くそう……
情報が漏れていたのか?
ただ、俺も九八も回復魔法が使える。
全身に光が満ちて、傷が治っていく。
よし、これなら‼
「ふむ、使えるね。」
これでまた戦いになると思った、それこそが大いなる勘違い、悪手だったのだが、その時はわからない。
『硬化』スキルのある九八まで、発動が間に合わないタイミングでズタボロにされた。
具体的には殴る、蹴る。
なんで魔法を使わないんだろう?初代は魔法が苦手なのか?
ぼんやり考える内に、あちこち骨折した、現代日本ならICUものの大怪我を負い、
「転移」の一言とともに、ゴブリン村に放り出された。
「うわあぁぁぁ‼」
「ぎゃあぁぁぁ‼」
そのあとの攻防は、ちょっと思い出したくない。
この世界のゴブリンが、そういう意味で襲わないと知ってはいたが……
男なのに貞操の危機を感じた。
今後初代に絡むのはもう止めよう。
目に入れなければ、同じ土俵に立たなければ、ライバルでも何でもない。
怖いわけじゃないぞ。
ただ、毎日はスゴく楽しい。
文明レベルは日本に劣るが、不自由しない金が王宮から与えられる。
要請され出陣すれば、魔物相手で一切の慈悲もいらない、ストレス皆無で無双できる。
楽しい。
俺、強い。
楽しい。
ただ、そんな日々も、召喚から2年半経った今、激変する。
俺から1年遅れで召喚された、18号勇者と仲間達が、アルスハイドに魔物を防ぐ結界を作った。
魔物を虐殺し、褒められる日々が……
俺の天国が終わった……
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