5章 王宮とヤンキー勇者と覗き見君
第81話 オークの腹毛に埋もれたい
「ちは。」
千夏が図書館にやって来た。
「どした?」
「素材が手に入ったからさ。」
アイテムボックスから出てきたのは、アクア・ドラゴンの爪と魔力袋。
以前頼んだものである。
「おっ‼️やったぁ‼️
狩ってきてくれたの、千夏ちゃーん⁉️」
「いちごのスキル実験兼ねてね。」
30号勇者、大崎いちごのスキルって言うと……
あれか‼️
『食料召喚』でこの世界のものを召喚した場合、素材そのものが出るんじゃないか?ってヤツ。
前に話しているのを聞いてたわ。
この場合『ドラゴン肉』を召喚すれば、『ドラゴン』そのものが出るんじゃないか?って話。
「で?どうなったの?」
「……大成功。ドラゴン乱獲状態。」
「マジか⁉️」
「それ、4頭目。」
「うわっ⁉️」
考えるほどに不思議なスキルだ。
「いちごのことも研究してみたいな。」
つい本音で呟いたら、
「止めてやれ。あいつはモフモフしてないぞ」と、千夏。
いや、失礼だなぁ‼️
自分は別に、毛の有無で知的好奇心が刺激される訳じゃない。
毛の有無は重要だけど、それは9分9厘の部分で、むしろ残るコンマ1%で興味を持たれたことを誇って欲しいぞ。
「どれだけ欲しいかわからなかったから。」
魔力袋は1体に1つだけど、爪は大小合わせて16ある。
取り敢えず、全部持ってきたらしい。
まあ、自分も18号勇者に丸投げだし、わからないからいいけどね。
でも、解体とかはどうしたんだろう?
「ん?魔石は朔夜のところで使うし、肉はこっちで食べるから、あと魔力袋と爪は戻しで、残り全部の素材はやるからって、5人くらい雇ったぞ。」
解体師に依頼したらしいが、千夏さん、大盤振る舞い過ぎだよ、それ。
ドラゴン皮は高く売れるし、牙も同じく。
内臓も薬の材料になる。
解体師達、1年分以上に儲けたぞ、それ。
ただ、さすがは千夏と言うか、なかなか抜け目ない彼女は、貴族街孤児院の年長組に解体を見学させた。
この世界に1人でも勇者が残る限り、たまには魔物が捕らえられ、解体されることもあるだろう。
職業選択の1つの可能性だった。
ドラゴン素材を置いて、いそいそと戻って行く千夏。
あれ絶対、ドラゴン肉でBBQだ。
いいなぁ。
ともあれ、素材が手に入ったので、これで元の世界を覗き見出来る魔道具……もう、『覗き見君』でいいか、それが出来上がる筈だ。
自分は勇者ホンで連絡をとり、明後日の訪問を予約した。
結界発生装置を隠す教会もどきでは、今18号達が返還の魔道具を作っている。
そこに、スキル『鉄壁』を使い、侵入者を防いでいるのが、29号で。
今は効果の切れ目がないように、朝夕で防御障壁を張っているから、早めに伝えないと自分まで弾かれるよ。
で、約束の日、楽しみ過ぎて早く着いてしまった。まだ来ていない18号を待ちながら、教会もどきの庭先で風に当たっていた。
元がモフモフ求めてのフィールドワーク中心だし、早起きも野外も気にならない。
って言うか、最近は召喚勇者の記録を探して室内作業だから、ストレスすごい。
あー、モフりたい。
オークでいいや。
あの柔らかい腹毛に顔を、すり付けたい。
1度声に出したら、
「魔物にとっては悪夢だから、止めてやれ」と千夏に言われた。
「襲われたって感じだろうから。」
失礼な‼️
自分は変態ではないぞ‼️
まだ春だなぁ。
緑が濃いぞ。風も気持ちいい。
ぼんやり空を見上げていると、
「あれ、7号じゃねえ⁉️」
「あ、そうだ‼️」
「でも、7号なら‼️」
「やる⁉️」
「ああ‼️」と、大騒ぎな声がする。
声は2人。男性。
2人は一気に敷地内に飛び込もうとし、見えない壁(スキル『鉄壁』)に当たって跳ね返る。
「うわっ⁉️なんだ⁉️」
「見えない壁があるぞ‼️」
「くそう‼️」
「逃げるぞ‼️」
馬鹿な犬みたいだな。
勝手に来て、勝手にはまって、勝手に逃げて行った。
あの、馬鹿2名はもしかして?
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