第80話 白竜救出作戦、後日談

 「じゃ、未踏地域があと1か所になったし、夏山登山行ってきます。」

 「じゃあね、2人共。」


 ニコニコ笑顔の栄太と香澄を見送るわたし達だが、正直白竜を移動させた後の方が大変だった。


 魔の森の中の湖を確認。

 結界外の、今までいたところより1回り大きかったが、そこは大丈夫だろうと判断する。


 白竜を移動させた直後、

 「では、皆さんに発表があります」と、面白そうにいちごが言った。


 「この湖、全部ポーションです‼」


 ……


 「は?」

 「どういうこと、それ?」

 「回復魔法はあっても、ポーションなんて無い世界だったはず、だよね?」

 「ええ……?」

 「って言うか、ポーションって何?」

 「「「はい?」」」


 わたしが言葉そのものを知らなかったら、全員に過剰反応された。

 解せぬ。


 って言うか、わたしはそこまでゲームも小説も詳しくないよ‼


 いちごの説明によると、神様にまでなった竜が1000年漬かっていた上に、湧水由来で水の入れ替わりも最小限、結果濃厚な魔力が染みた水になった。


 その濃度は、そのまま飲んだら即死できるレベル。


 「うえ?マジかぁ?」

 「うん。多分魔力が強過ぎて体が溶けるね。で、終了。」

 「怖っ‼」

 「でも、薄めれば完全なポーションになるんだよ。」


 10倍希釈でエリクサー、死んでなければ全快するそうだ。


 100倍希釈で特級ポーション、失った腕や足さえ治るそうだ。


 樽の水に1滴落とす、それだけで、簡単な怪我なら消え失せ、ついでに疲労さえ抜け失せる、初級ポーションが出来るそうだ。


 「ここの領主が誰なのか知らないけど、今まで出会ったバカ貴族みたいなのじゃ洒落にならんし。

 饅頭に相談した方がいいと思う。」


 いちごの話は至極まともで、結局王宮に移動魔法で帰り、大福を召喚、またこの場に帰ってくる。


 「すごい‼ポーションだって‼」


 素直にテンション爆上げした大福は、

 「これで皆を救える」と、言った。


 格好をつけている訳じゃない。

 素でこういう事を言えるところが、

 『馬鹿だけど善王』と評される所以だった。


 幸いにもこの地は、魔の森に続く樹海の中にある。

 近接する貴族の土地じゃない、王宮の直轄領だった。


 今は間違って人が近付かぬよう、柵を作り、常駐の兵士を置く。

 国の研究機関を作り、近い将来魔物被害で障害を負った人々に、ポーションを配り歩けるよう準備中だ。


 5号と6号を見送り、落ち着いた後いちごに聞いた。


 「ねえ、いちご。」

 「ん?」

 「あの神様に何か聞いた?」


 「ああ」と、しょっぱい顔をする。


 いちごはあの神様に、『勇者返還』について尋ねていた。


 「まず『等価交換』せずとも、こちらから魔力で押し出すことは出来るぞ。」


 白竜いわく、交換でなくごり押しで、莫大な魔力で元の世界に押し戻すことは可能だそうだ。


 ただ、どの程度の力が必要かわからないし、強引な形で世界の壁を超えた場合、何が起きるかわからないらしい。


 勇者がさらに強力になり、人類の脅威として戻るかもしれないし、その身を支えることが出来ないほど限界まで魔力を搾り取られ、普通より弱まった状態の返還かもしれない。


 「だから、これは最終手段にしておけ」と、白竜は言ったそうだ。


 「やっぱ、向こうの何かと交換するのがリスクが低いみたいだ。」


 いちごは小さくため息をついた。


 栄太と香澄に報告の電話を掛けられる日は……


 まだ少し遠いかもしれない。

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