第74話 のんびりしていたジンベイザメを急に浅瀬に引っ張ってくるような?

 実験は、すぐには始められなかった。


 いちごと2人で作った惨状を何とかしないといけない。


 魔の森とはよく言ったもので、わたし達を中心に辺り一面死屍累々。


 いやまあ、わたし達がやったことの結果だけどね。


 「これが人間を襲っていたのかと思うと、ゾッとする。」


 珍しく、真顔で呟くいちご。


 この人は勘がいい。

 人によっては『戦える自分』に酔ってしまい、本質に気付かないこともあり得るが……

 アルスハイドの危険性をちゃんと分かってくれた。


 「で、オークとかどうする?」

 「食料になるし、養殖オークより旨いはずだよ。

 時間停止機能付きだから、血抜きも必要ない。アイテムボックスに仕舞って行こう。」

 「了解。ゴブリンは?」

 「食えないし、素材としても最低限だし。森に返せばいいんじゃない?」

 「オッケ。放置ね。」


 30分の戦闘で、片付けに1時間。

 腑に落ちない。


 「じゃ、試してみようか。」

 「まあ、いいけど……」


 魔法は『等価交換』だ。

 注ぎ込んだ魔力に釣り合う事象が起こる。


 いちごは有り余る魔力を注ぎ込んで、日本の食品を生み出していたが……


 『世界の壁』が存在する以上、日本のどこかから米が1トン消えて……はありえない。

 おそらく対価とした魔力で作り出されているのだろう。


 で、ドラゴンだ。


 ドラゴン肉を食料と認識したいちごが、それを召還した時……


 米とは違い、この世界にあるものだから、あえて魔力で代用品は作らないだろう。

 ならば、生体そのものを召還してしまえば……となる筈だ。


 「……」

 いちごが頭の中でスキルと会話し、不意に‼


 「グギャアァァァァッ‼」

 訳のわからない咆哮と共に、目の前に現れたのはキング・ドラゴン。

 アクア・ドラゴン事件の頃、名前だけは教えたことがある。

 この世界最大級のドラゴンが目の前にいた。


 「うおっ、スゴッ‼」とか言いながら、いちごは全然ビビっていない。


 肝太いなぁ、この子。


 キング・ドラゴンは、アクア・ドラゴンの3倍くらい。

 小さな山が飛んでいるような光景なのだが、幸いにも巨体なだけで、魔法性能は無い。

 ただパワーがあるし、同じドラゴン種を餌にする貪欲さを持っている。


 「なんだよ、いちご。たくさん食べたかったの、肉?」

 「ンな訳あるか‼種類の指定は出来なかったんだ‼

 まあ、何頭召喚しますか?って聞かれた時、こうなるのはわかってたけど‼」

 「……100頭にしなかった理性に感謝する。」


 そう言えば、基本必要量の何倍も召喚する性質だったよな、いちごは。


 ドラゴンは咆えまくっていたが、急に今までいた場所から転移したのだろう、瞳に動揺が走っている。


 レーザーメスで脳天を打ち抜き、終了。


 「またスナイパーみたいな殺し方しやがって。」

 「素材のどこを使うかわからないから。これが1番安心だよ。」


 朔夜の方は竜種なら何でもいいらしい(ただし飛ぶもの)が、雨月からはアクア・ドラゴン指定である。


 「じゃ、アクア・ドラゴン出るまで続けるよ。」

 「マジかよ。大虐殺だな。」


 2頭目はウインド・ドラゴン、3頭目はレッド・ドラゴン。

 4頭目にやっとアクア・ドラゴンが出て、全部アイテムボックスに収納している時。


 「ドラゴン狩りする馬鹿なんてこの世界の人じゃないとは思ったけど。千夏さんじゃん。」

 「わーい、千夏さーん。」


 懐かしい声が聞こえた。


 うん。

 結界外まで出てくる馬鹿は、わたしも勇者しかいないと思ってた。


 「久しぶりだね、5号と6号。」

 「ああ。」

 「お久しぶり。」


 「えっ‼勇者なの、この2人?」

 驚くいちごに紹介する。


 「結婚して3年前に引退した、5号勇者の幸成栄太(ユキナリエイタ)と、6号勇者の今中香澄(イマナカカスミ)ね。」

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