第73話 初‼共闘‼

 みどり、緑、ミドリ……


 視界全てが緑色だ。


 まさに森‼️

 魔の森だったのだ。


 朝食を食べ終わったタイミングで、急に千夏が言い出した。


 「今から少し出かけてくるから。もしかしたら2、3日空けるかもしれない。」

 「は?」

 「あ、はい。」

 「どこに?」

 「んで、貴族街孤児院は、世奈とほむらに任せるよ。」

 「はい。」

 「いや、で、どこに?」

 「アルスハイドの南の果て。あと、いちご借りる。」

 「は?」


 で、主要登場人物である私もわからないまま、移動魔法炸裂。


 今に至るわけだ。


 「前にゴブリンの氾濫があって来たことがあってね。」


 千夏の移動魔法は、行ったことのある場所ならすべてオーケー。


 いや、だからってわざわざ結界の外、森の中に移動した意味が分からない。


 千夏に連れてこられたのは、アルスハイドの南の国境を500メートル程下がった場所。

 魔物の領域であり、さっきから引っ切り無しに敵が来る。


 アルスハイドは、大まかには北側にドラゴンが、東側に地竜が住み、その方向の難易度が高い。

 西側、南側は、よくあるゲームや小説の序盤の敵、ゴブリン、オーク、コボルトなどの群棲地。


 しかも結界が出来て間も無く、魔物達はリスク0のご馳走である、人間に手出しできなくなって日が浅い。


 急に飛び込んできたご馳走(私達だ)に、テンションあげあげ。


 「まったく、なんで行き成り結界外なんだよ?」


 斜め後ろから飛び掛かってきたオークの首を、後ろ回し蹴りで思い切り蹴る。


 相手が人外だから手加減無用だ。マイナス勇者のフルパワー。

 喉ぼとけを蹴り抜いた形となり、足に伝わるゴキッと何かが折れた感触の後、オークはその場に崩れ落ちる。


 私には魔法がない。

 身体強化のスキルはあるが、基本肉弾戦オンリー。

 

 元々が総合格闘技の選手だが、オーク相手に関節を決めたり寝技に持ち込む趣味はない。

 剣道など、武器を使う習い事はしていない。

 ならば立ち技、それも蹴りオンリーで挑むのが正しいはずだ。


 また来たオークの首を折る私に、

 「まあ、あんたのスキルの実験と、魔物の間引きを兼ねてね」と、千夏。


 「ついでに朔夜と雨月の素材集め。」


 余裕で話しているが、千夏も魔物に襲われている。


 私にはオーク、千夏にはゴブリン。

 何故住み分けているか、奴らに聞きたい。


 やっぱ、召喚に使われた魔石のせいなのか?


 バカ饅頭め……


 「朔夜の結界は信じてるけど、たまには間引いておかないと魔の森内部のバランスが崩れるし。」


 千夏の剣術は、おかしい。


 時々話題に出ていた聖剣でだろうが、スパスパゴブリンの首を跳ね飛ばす。


 その跳ね飛ばし方が……


 恐怖映像だ。


 考えてみれば、私は何もないところから自分の経験をもとにスキルを生やした。


 勇者プラスの千夏は『世界の壁』の加護が盛りだくさんで、やっていなかったことまで出来る、そういう状態。


 まともに剣術を習ったことの無い人の剣術は、この上なく不自然な動きでも『切れる』、そういう不条理な状態である。


 迫りくるゴブリンをサクサク切り伏せる千夏。


 それ、芸人がハリセンで、相方を叩く時の動きだし。


 怖いよ‼姉さん‼


 過剰戦力で休みなく戦闘、30分ほどで魔物の出現が途絶えた。


 これだけの魔物が森にいて、それが人間を襲っていたのだと、結界前を思ってゾッとした。


 「んじゃ、そろそろ食料召喚、試そうか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る