第72話 29号はクソ真面目

 貴族街孤児院?担当は、翌朝からうちとほむらさんになった。


 料理自体は料理長が協力してくれるし、うちの仕事は運ぶだけ。

 ハイとの散歩コースが少し変わる程度。


 うん、楽チンでごめん。


 勇者のお仕事、2つ目だね。


 王宮で、勇者一家で朝御飯を食べて、片付けて。

 食堂で、持っていくご飯を受け取って、ハイをベビーカーにのせて、出発だ。


 「あっ‼️世奈ちゃんと、ハイ君だ‼️」

 「世奈ちゃん、来たぁ‼️」

 「お早う‼️」


 元伯爵邸に着いた途端、コロコロと年少の子らが飛び出してくる。


 最初にうちを見つけたのが、カナンちゃん。4歳だ。


 ここの子らは、皆小さくて折れそうに細い。


 胸がぎしっと痛んだが……

 顔には出さないよ。


 うちは、この世界のことを何も知らない。


 「慌てることないよ。真面目だなぁ、世奈」と笑ったのは、いちごさんだ。


 「今はハイの世話もあるし、家事壊滅勇者トリオの面倒見もあるんだから。頑張り過ぎることは無いさ。」


 結構頑張っているこの人に言われても説得力が……と思ったが、

 「私は適当だぞ。

 この世界から帰る人間だ。メインはトイレットペーパー勇者に投げたよ」と、笑う。


 雑だけど、優しい人なんだ。


 考えてみれば、うちはいつものめり込み過ぎる。

 初彼にのめり込んだ挙げ句がハイだし、その彼に裏切られて、嫌になるほど落ち込みもした。


 どうすればいいか?

 何をするべきなのか?


 今はまだ分からないけど。


 今、元の世界に帰る方法を探す千夏さんといちごさんの計画が成功したとして。

 うちはまだ日本に希望を見出だせない。

 でも、アルスハイドのことも何も分からないから……


 慌てない。焦らない。


 少しずつ、少しずつ、前に進みたいと思うのだ。


 その点、子供達はスゴい。


 「朝御飯配るから、器、持ってこい‼️」

 「慌てないで大丈夫だよ。」


 1階の大広間を共同スペースにしたらしい、年嵩の子が食事を配る。


 朝は具だくさんのポトフと、子供の顔くらいある、パン。


 皆嬉しそうだ。


 お金を貯めて、いつか独立するのが夢だ。


 慌てなくていいよ。

 うちも慌てないから。


 皆で朝食を見守った後、今度はリーシャちゃん達、魔道具製作班の教会に寄り、スキル『鉄壁』を発動する。


 そう言えば、年嵩の子には伝えてあるが、元伯爵邸でも『鉄壁』してる。

 欲に取り付かれたお馬鹿さんが、無茶なことをしかねないからね。


 「なあなあ、世奈ちゃん。」

 

 話し掛けてきたのは、ソラン君。


 「あのさ、オレ、こ、こう言うの、また食いたい。お湯かけて、こう……」


 どうやら、フリーズドライを食べたことがあるらしい。


 いちごさんだな?


 「あれはこの世界に無いものだから。今は出掛けてるけど、今度いちごさんに頼んでごらん。」

 「うん、わかった。」


 パッと笑うソラン君。


 なんか、最初にスゴいお仕置きされたらしいけど、彼はいちごさんになついている。


 そう言えば、今いちごさんは……

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る