第66話 テンプレ展開、待ってた、ほい‼️

 いちごさんに相談して3日。

 

 恐ろしいほどの行動力だ。


 多分本人は嫌がるだろうが、思いつき即行動の、アルスハイド王に匹敵する。


 最初の『食料支援』が始まった。


 俺も仕事が入っていなかったこともあり、当然参加。


 彼女は、市場で屋台が営業している広場の一部の、使用許可を携えてきた。

 9時から10時の1時間。


 屋台は、朝食用に6時から8時(やらない店も多い)、昼食用に11時から14時、夕食と呑み用に17時から22時くらいで営業している。


 前後で準備や片付けの時間はあるだろうが、1番影響の無い時間帯で、王家の印の入った許可証付き。


 雑で力業ないちごさん、意外と抜け目無い。


 たった1時間と思うなかれ。

 俺達は勇者だ。


 要はアイテムボックス持ち。


 準備時間、0なんだよね。


 「よっ、と。」


 一応言ってみただけだな、この人。


 至極当たり前に……

 つまりは、全く重さなんて感じていないみたいに、いちごさんはアイテムボックスから大鍋を2つ出して路上に置いた。


 王宮の食堂から借りたらしい、完全に給食当番レベルを凌駕して、1鍋中身入りで70から80キロはありそう。


 身体強化、スゴいわ、この人。


 俺達、勇者のアイテムボックスは、時間停止機能付きだ。

 熱々の状態の鍋が外に出た途端、辺りにいい匂いが漂い出した。


 「この量じゃ、世奈任せは悪いと思って。王宮の料理長に頼んだし。」


 脳筋人たらし……


 鍋の中身はパン粥だ。

 コンソメベースとコーンスープベース。


 米至上主義と聞いていたが、米はアルスハイドではオーパーツだ。

 常識的に避けた模様。


 ちなみに牛乳や牛肉もそこそこレアで、今回のスープは豆乳使用。

 ミノ(タウルス)さんの家畜化は、オークに遅れ始めて数年だし、まだ安定してないし。


 おかしな行動をとる女に(失礼💦)、絶賛警戒中だった孤児達が、匂いにつられて少しずつ近付いて来る。


 「こっち、少年。」

 

 中の1人をいちごさんが手招きした。


 「なに?」


 警戒しているが、匂いに抗えないのだろう。

 近付いてきたのは、小学6年生くらいの、孤児にしては大柄な少年だった。


 「字、読める?」

 「あんまり。」

 「じゃ、これ。」


 いちごさんが指さしたのは、場所の使用許可証に押された印章だ。


 「これ、王家の紋章。私達は王様の命で、君達にご飯を持ってきた人。」


 お?

 王様、普段から饅頭呼ばわりなのに?


 『王家を立てて偉い』とも思ったが、まあ要は、1番話が早いからか。


 「え?飯くれるのか?」

 「うん。」

 「2種類あるけど?」

 「それはどっちか選んでもらうけど、でも、手伝ってくれたら2杯目いいよ。」

 「え?」

 「今この周りにいる以外にも、いっぱい仲間がいるよね?

 呼んできて欲しいの。あと、もしあればお皿とスプーン持ってきてよ。

 あの兄さん、1人もんだから山ほど食器余っているけど、全員分には足りないからさ。」

 「うっせえ。」


 「わかった。」


 駆け出そうとする少年。


 「ああ、そこの子達も手伝ってよ。勿論、君らにも2杯目あげるから。」

 「あ。」

 「分かった‼」

 「行こうぜ‼」


 近くにいた、3人ほどに声をかけた。


 うまいな。

 これで『仕事(手伝い)』と『報酬』を結び付けた。


 やがて、三々五々孤児達が集まってくる。


 「あ、あのさ、姉ちゃん。」

 最初に声をかけた少年が、約束の2杯目を貰いながら話しかけてきた。


 「ん?」

 「あ、あの……」

 「ああ、動けない子もいるんでしょ?」


 気配感知と鑑定を併用して気付いている。


 「大丈夫。後で直接持っていくから」と言うと、

 「ありがとう」と、少年は笑った。


 彼がこの集団のまとめ役で、なかなか面倒見の良い子だと思った。


 と、

 「くそう‼ふざけんな‼」と、急に奥から飛び出してきた少年がいる。


 彼の眼は、怒りに燃えていた。


 「何が王家だ‼今更餌付けしようとしやがって‼」


 うん、気持ちはわかる。

 少年はそれだけ苦労し、それだけ辛い思いをしたのだろう。


 遅過ぎた救いの手を恨む、その気持ちは分かったが、その後の行動がいただけない。


 「くそう‼こんなモン‼」と、鍋をひっくり返そうと突進してきた。


 実際は火傷するだけで、彼の力では巨大寸胴鍋を倒すことなど出来なかっただろうが……


 瞬間、映像がぶれたように、少年の姿が視界から消えた。


 

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