第65話 路上暮らし2年目

 オレは、ソランと言う。8歳だ。


 ……


 うう、話しにくい。

 ずっと自分のことは『ボク』だった。


 でももう、8歳になった。

 ボ……オレは1人で、いや、オレ1人で『妹』を守って、絶対に生きていかなければならない。


 『ボク』とか言ってる場合じゃないよ。


 オレは南の村の出身で、村の名前は『ダレン』?、『ダラン』?

 そんなところまで曖昧だ。


 村は2年前に壊滅した。

 オークの群れが入り込んだ。

 5頭くらいらしいが、人口が100人もいない小さな村は、それで終わった。


 叫び声があたりに響き、住んでいた家もなくなった。


 そこで意識が途切れたから、なぜ自分が五体満足な状態で、残骸の中に転がっていたか理解出来ない。


 村を襲ったオークは己の食欲を満たした後は、至極どうでもよい対応をしたのではないか?


 腹が膨れれば魔物は襲ってこないものだと、嘘か誠か、城下町の孤児仲間に聞いたことがある。


 彼らは満足して去り、村に残ったのはオレと、当時2歳だった同じ村のカナン。


 100人足らずの村だから、彼女のことは知っていたさ。


 生きていたのはオレ達2人で、後は死体さえ残らなかった。

 オレの両親も、ちょっと癇が強くて苦手だった村長も、友人だった1歳上のコウヤも、もうどこにもいなかった。


 もう立ち上がる気力も無かったが、カナンが泣いていたので取り敢えず動く。

 せめて自分より年少の、この少女を守らねばならない。オレ達は国の中心である王都を目指す。


 かねてより、両親と決めていたのだ。

 いつ魔物に襲われるかわからない世界だから、もしもの時は王都で会おう。


 バラバラになったら、落ち合うのは王都、だ。


 この悲しい約束は、つまり生き残ったのはお前だけだから、1番暮らしていける可能性のある『王都を目指せ』と言うことだ。


 分かっている。

 そこに誰もいないことは。


 けれどもうそうするしかなく、半年かけて野宿して、幸いにも魔物に出会わなかったから死なないで済んだ。

 でも、食べ物は文字通り道草を食って、やっとの思いで市場に住みつく。


 『住みつく』と言っても、家はない。

 路上暮らしだ。


 けれど、ここには同じような境遇の子供達がいて、生きる術は彼らに習った。


 残飯が比較的手に入りやすい場所で、足りなければ街路樹の木の実や草を食う。


 食べるとお腹を壊すものを教えてもらう。


 雨の日は悲惨だ。

 オレ達に逃げ込める場所はない。

 ただ震えて、濡れそぼりながら夜を待つ。


 一部の食堂が、店の前のタープを張りっ放しで残してくれる。

 営業時間が終わった深夜からだが、どうにか雨に濡れずに済んだ。


 数日前の雨から、カナンの体調が悪い。

 頭からずぶ濡れになった。

 たった4歳の体力では風邪をひいたのかもしれない。


 オレの大切な妹だ。


 熱があるようだった。

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