第64話 雑だけど優しい人

 「んじゃ、饅頭の方は話しとくわ。」


 相変わらず、王様、『饅頭』呼びのいちごさん。


 いくら調査目的とは言え、あのまま衆人環視の中飲み続ける度胸は無かったよ。


 俺といちごさんはシチューセットをテイクアウトし、俺の事務所兼自宅に来ている。


 豚串焼きの、『ちょい呑みセット』は残さなかった。

 あの場にいた子供達が『それ』を心から渇望しているのは分かっていたが、施す者も施される者も、心に相応のダメージを負う。


 大丈夫。

 基本お節介で優しいところのある最後の勇者と、必ず正式に救うから。


 ちなみに、この世界でテイクアウトと言えば、食器込みの値段になる。

 プラ容器があるわけもなく、素焼きの粗末な皿を使う。


 もし容器代を節約したければ、次回は持っていけば割り引いてくれるが……


 男の1人暮らし。

 そこまで俺はマメじゃない。


 また皿が増えた……


 話が逸れた。


 まず現状、何1つ孤児に対してのセーフティネットが無いことが問題だ。


 アルスハイドは、今復興に向かっている。

 魔物災害があった頃に寸断された道を直したり、新な社会インフラを整える方が先で、なかなかストリートチルドレンの問題まで手が回らない。


 普段の行動からは信じられないが。


 千夏さんいわく大福、いちごさんいわく饅頭王は、実は結構優秀だ。

 でなければ、思い付いたら即行動の、一見頭脳派の真逆の成果も、成し遂げることなど出来なかった。


 いちごさんが一言添えてくれれば、1年先だった救いの手が、1ヶ月先くらいまで早まるかもしれない。


 まずは、大前提として国を動かし土台を整備することは、最も大切なことと言えた。


 「ただ、これだと一部に間に合わないんだよね」と、いちごさんがため息をついた。


 本当に凄まじい魔力量だ。

 市場で彼女は、辺り一面の子供達を『鑑定』している。


 「大きな病気は無かったよ。」

 「うん。」

 「ただ、日本的感覚なら入院させたいのが数人いた。栄養失調ってヤツ。」

 「あぁ。」


 今入院させたい状態の子は、待たせれば命の危険がある。


 「だから、早急に食料支援は始めないといけない。ただ、動ける子も結構いて、援助するだけじゃ怠け者を作る可能性もあるから。」


 「仕事とセットにしよう」と言い出した。


 「でも、与えられる仕事が無いよ。」

 「それは1つ心当たりがある。まあ、これも饅頭と要相談だな。」

 「任せて大丈夫?」

 「ああ。」


 請け負った後最後の勇者は、祈るように手を合わせる。


 その手の間から、この世界ではオーパーツだ、ソフトカプセルが溢れ出した。


 「うわっ⁉️なんで⁉️」

 「私と千夏が持ってるスキル、薬品合成。まあ、私は処方箋なしで買える程度のものしか作れないけど。」


 「これ、いわゆる栄養剤だから、食料支援の時ヤバそうな子見つけて飲まそう。」

 「あ、ああ。」

 「あと、これ‼️」


 急に空間から小袋がザラザラ出てくる。


 カップ麺の時に見ている。


 けれど、やっぱり驚いてしまった。

 いちごさんが、食料召喚を使った。


 「肝油?」


 赤ちゃんの顔が印刷された、定番のものではない。

 かわいい感じの小袋で、内容量も10日分程度だ。

 より、お菓子っぽい。


 「何でど定番にしなかったの?」

 「終……肝油って、一気に食べなかった?」


 ああ‼️超納得だ‼️


 定番1缶は、数ヶ月分に当たり……


 「絶対鼻血出すから、まずはこの辺から始めよう。」


 いや、本当。


 30号を呼び出して良かったよ。

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