第63話 当事者と当事者以外に出来ること

 「なんだよ、突然、終。」


 文句たらたらの私に、

 「まあまあ」と、ヘラヘラしている終。


 夕方急に呼び出された。

 私達は市場に来ている。


 「文字通りの、『市場調査』しませんか?」と誘われたのだ。


 「ったく、私じゃなくてほむら呼べよ‼️」

 「ほむらさん、ですか?」

 「そう‼️」

 「いや、ほむらさんとは、」


 「吸血鬼と餌の関係なんで。」


 ……

 言い方ぁ‼️


 実は、終とほむらはしょっちゅう会っている。

 やはり、1度スキルが消えかけた体験は相当なショックらしく、例えるなら、『90%以下になったらスマホ即充電‼️』な人になってしまった、ほむらのヤツ。


 とは言え、男女のややこしい関係にはならないよ。

 マイナスとは言え、勇者相手に何の心配?と思うのだが、

 「女性の1人歩きは危ない」と、基本千夏が付き添っている。


 千夏さんや……


 心配性な母親か、あんたは⁉️


 そう言えば、勇者間の連絡が簡単になったのは、朔夜のお陰だ。


 私と世奈の無限スマホを見て、急にクラフト‼️

 かなりトランシーバー寄りの、スマートじゃないからただの『ホン』かな?

 勇者ナンバーで連絡をとることが出来る、携帯電話を作り上げた。


 ちなみに、リーシャには0番を割り当て、あとイタズラに使うなと釘を刺した上、99番が饅頭。

 ここに『勇者連絡網』が完成した。


 今回終は、『30番』に電話をかけてきたわけだ。


 私は基本、夕方以降は『王宮勇者一家』で団欒している。


 だから、この時間の市場にいるのは初めてなのだが。


 ……


 なんと言うか、日本のアフターファイブの歓楽街だ。

 1日の仕事を終えて、一杯引っかけて帰るつもりの男女が溢れ、いわゆる店舗タイプの居酒屋と、そうまではしなくていい人用の、ビール(こちらだとエールか?)と簡単なおつまみを出す屋台が溢れている。

 路上で立ち飲みする、客達が騒いでいた。


 そして、周囲に気を張らなくとも目に入る程度に存在する、恐らくストリートチルドレン達が、今回終が伝えたいことかな?


 ビールと豚串焼き2本の、『ちょい呑みセット』を買ってきて、

 「飲みますよね、いちごさん?」と、終。


 まあ、こちらの酒にも興味はあるしね。


 ちなみに流石の魔法のある世界、ビールはキンキンに冷えていたし、私の宿敵?養殖オークの串焼きも旨かった。


 魔物避けの結界が出来て、アルスハイドはいろいろとと回復しつつある。


 が、今は正にその過渡期でもある。

 弱い部分まで手は回らず、あと1年もすれば行き届く筈の『手』も、今はまだだ。


 後で思えば、

 『仕方がなかった』の言葉でひとまとめにし、一体どれだけが犠牲になるのか?


 「いっぱいいるな。」

 「15、6人でしょうか?」

 「甘いよ、終。」


 私には『気配感知』がある。


 屋台があり、盛り上がる広場周辺には?

 

 「見える範囲で23人、動く気力もないのか、幼過ぎるのか知らんけど、見えない部分も入れれば100人近い。」

 「え?」

 「気配感知。」


 「で、どうする、終?」と、水を向ける。


 「はい?」

 「前にも言ったけど、私はこの世界に残らない。アルスハイドが嫌いとかじゃ無いけど、元の世界の繋がりが大切だ。」

 「……」

 「だから、私はこの世界に積極的に手は出さないし、出してはいけないと思っている。

 ただ、この先もアルスハイドで生きる、終が変えたいと思うなら、手伝うのはやぶさかではない。」


 元々が『子供好き』だ。

 本音では我慢ならない、だからこその落としどころだ。


 汗をかいたビールの向こうで、終が少し笑った気がした。

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