第52話 万物鑑定は有能です

 「このマイナス勇者のいちご様に、何か用?」


 振り向くと、ほむらがポカンと見つめていた。


 何?

 なんで化け物でも見た感じ?


 「どした?」

 「あ……いや、マイナスってマジで?」

 「ああ。マイナスだよ、私。オークの魔石、かき集めて召喚したらしいし。」

 「え?マジで?」


 「わたしも『勇者マイナス』の意味、考え違いしてたみたいなんだよね」と、千夏が困ったように言った。


 え?

 どういうこと?


 「わたしも今まで、これだけ近くで勇者マイナスの人を見たことが無くてね……」


 千夏もこれまで当たり前に考えて、勇者プラスは『優秀』、勇者マイナスは『力不足』と考えていたらしい。

 いや、素直に『劣等』と言えし。


 ただ、観察し考えを変えた。

 「勇者マイナスは、『力不足』じゃない、『アンバランス』なんじゃないかな?」


 言われて、考えてみる。

 確かに私は、勇者プラスの千夏をして、異常と言わせる魔力量を持っている。

 

 なのに、使える魔法は0で、『食料召喚』にしか使えない。

 後付けスキルを生やしたせいで、多少は使えるようになったが……

 まあまあ、宝の持ち腐れだ。


 あと、これもスゴいらしいけど実感がないな。

 『万物鑑定』も持っている。


 格上でも『鑑定』出来る力で、どうやらこれも異常らしい。


 「バランスが悪過ぎて弱いと思われただけで、実際はある限られた分野において最強なんじゃないかと思うんだ。」


 まあ、有り余る魔力量を利用した結果、『身体強化』でドラゴンまで持ち上げられたし……

 そう、なのかな?


 「で、個人情報保護的にはどうかと思うけど、ほむらのステータス、いちごに鑑定させたら、たぶん本人さえわからなかった事実が浮かぶんじゃないかな?」


 千夏の提案に、

 『それはどうかな?』と思う。


 世代が若くなるほどに、個人主義の傾向が強くなるこの世の中、ステータスを他人に教えろなんて、暗証番号教えろに等しいと思う。


 ほむらが納得しないのではと懸念していたが、意外にも彼女は乗り気なようだ。


 「え?マジで分かるんですか?」


 一瞬嬉しそうな顔を見せた。


 引きこもりの原因が『マイナス』だったのかはともかく、まあまあ気にしているんだな、と分かる。


 「おーい、世奈ぁ‼️」

 「はい?」

 「今晩またいろいろ出すからさぁ。ほむらの歓迎会やろうぜ。」

 「いいですよ。」


 「じゃ、晩飯の時に鑑定するわ。」

 約束すると、頷いた。


 引きこもりは、このままなし崩しで脱却していただこう。


 食事会も終わり三々五々帰ろうとしていると、千夏のところに、雨月が走り寄った。

 

 「千夏ちゃん‼️魔道具作りたいから、アクア・ドラゴン狩ってきてよ‼️」

 「は、またぁ?……ん、まあ、いいけど。」

 「ありがとう‼️千夏ちゃん、いい人‼️」

 「でも、先に城下にいる最後の勇者だし、3号に会ってからね。」


 次は、トイレットペーパー兄さんか⁉️

 



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