第48話 ドラゴンステーキと麻婆豆腐

 一体なんでこうなった?


 異世界に来た。

   ↓

 引きこもった。

   ↓

 米を食わされて動揺した。

   ↓

 ドラゴンが来てパニック。

   ↓

 どさくさで引きこもりを脱却した(←今ここ)。


 何故だろう?当たり前に引きこもり部屋を出て、王宮内の食堂の片隅を借り、勇者御一行と歓談している。


 アクラ・ドラゴンの肉を手に入れた千夏が、

 「これで全員分……リーシャも入れて9人か。9人分の最高のドラゴンステーキをよろしく。余った分はあげるから」と、時々ご飯を運んでくれた人は料理長だったらしい、ドラゴンのサイズ感からしたらごく一部だが、牛1頭分はありそうな塊肉を渡した。


 「いいんですか?勇者様。」

 「オッケー、オッケー。」

 「本日の夕食で使わせて貰います。スープはオニオンで?」

 「うん、任せた。」

  

 アタシ達がいるのは食堂の1番奥のテーブルで、早番の王宮の従業員達が他のテーブルで食べ始めている時間だった。


 居合わせた人々の肩がビクンと揺れる。


 晩御飯は、誰より早く駆けて来ようと、それぞれ決意した顔だった。


 「なあ、千夏。」

 「ん?」

 「マジでA5なみに旨いのか、ドラゴンって?」


 いちごが確認する。


 「うん。旨いって言ってもサーロインとかリブロースとかじゃなくて、ヒレとかトモサンカクみたいに、シモはフリフリでもくどく無い感じ。」

 「おっ、なら‼」

 「用意しましょう、いちごさん。」


 「この子みてて、ほむらさん。」

 世奈に赤ん坊を手渡された。


 気安過ぎて、ふわっと胸の内が熱くなる。


 やがて1人前400gはありそうな、大きなステーキとスープが到着。


 「まあ、現状説明するからお昼にしよう」と千夏が宣言すると同時に、

 「間に合いましたね。」

 「やっぱど庶民感覚としては、ステーキには米でしょ?」と、いちごと世奈が戻ってきた。


 給食当番か‼って言いたくなる、大鍋に白米と、あと何故か大皿数枚に入れた?


 「は?麻婆豆腐?」

 「おう。雨月さんにサービスだ。日本の麻婆豆腐の素使ってるから、本場とは違うだろうけど。」


 マーボと言ったら、丸〇屋だ。

 え?

 なんで、そんなもんあるの?

 

 米にステーキ、オニオンスープに麻婆豆腐と言う、なかなかカオスな食卓だ。

 「あと、これ」と、いちごが出したのが、ステーキソース各種で場は大混乱する。


 「え?どうすればいいの?」

 「リーちゃんは……僕ら全員バラバラの味にするから。ちょっとずつ味見して決めな。」

 「うん。」

 「じゃあ、僕はおろし醤油で。」

 「僕はオニオンだな。」

 「んじゃ、僕はガーリックペッパーかな。」

 「うま‼ワサビ塩、うま‼」

 「渋いな、世奈。

 私はおろし醤油だな。飯に乗せて、タレもぶっかけて、うまい‼」


 意外にも、現地の子らしいリーシャが1番、麻婆豆腐にはまっていた。

 「美味しい、これ、辛くて‼」と騒ぐ側で、

 「うん、懐かしい」と、雨月も笑う。


 本当にうまい。

 麻婆豆腐も米も旨いし、何よりこのドラゴンステーキ。

 柔らかくてジューシーなのに、全く胃にもたれない。


 半分はワサビ塩で、半分はオニオンソースを使わせてもらった。

 うまい‼


 みんながある程度落ち着いたところを見計らって、

 「んじゃ、現状説明するから」と、千夏が話し始める。

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