第49話 お人好し勇者と気紛れ勇者
「んじゃ、全く知らない人もいるし、取り敢えず最初から説明するから。」
いかにも面倒くさそうに髪をいじりながら言う千夏を、
『相変わらず面倒見がいいなぁ』と、自分は半ば呆れながら、微笑ましい気分で見つめていた。
この初代勇者は人がいい。
召喚をやらかしているのはアルスハイド王国で、千夏には何の関連もない。
でも、新しい勇者を放っておけない。
そう言う人だ。
自分と同じ『研究者肌』だけど、やはり『医者』と言うことか?
お人好しをなるべく出さないように、出さないように気を付けているのが、また笑える。
今はこの集団の面倒を見ているのだろう。
自分は……周雨月は北京生まれだ。
両親はトレーダー。
株や証券の売り買いや、FXで稼いでいた。
あの荒れる中国の市場を乗りきっていた以上、かなり優秀なトレーダーと言える。
こんな金が命‼️の両親にとって、生物学を学ぼうとする娘などエイリアンなのだが、大学卒業までの学費と、寮費と生活費はくれた。
一応北京大学だしね。
自分は初年度の学費その他は確保、残りを全て突っ込んで、株の売り買いで資産を増やす。
興味は全く無い世界だが、どうやらこっちの才能もあったらしい。
人生が10回送れるくらい、稼いだ。
後は好きなだけモフモフ天国し、卒業時、人生2回分を両親に返し絶縁する。
何かごちゃごちゃ言っていたが、私にかかる費用を倍にして返したから、知らん‼️
意外にも金儲けの才能があった娘を今更惜しんだようだが、うちには敢えて罰金を払ってもうけた長男がいる。
だから、こんな銭ゲバ一家はいらん。
さっさとアメリカに留学、バイソンを堪能した後、日本でライチョウ。
金は十分あるし、もう少し研究ライフを楽しもうとしていて、召喚‼️
えーっ⁉️
なんでこんな計算違い⁉️と思ったが、アルスハイドには見たことがない生物がいっぱいいた。
ドラゴンはツルッとしていて興味は無いが、ウルフ系はモフモフだし、オークだって、触れば短めの体毛が柔らかい。
そのまま好き勝手研究し、7年だ。
そしてその7年間、千夏が然り気無くフォローに回っていた事を知っている。
自分は、お人好しの初代勇者を気に入っている。
まあ、千夏が帰りたいなら、協力もやぶさかではないと思っていたが、説明に少し引っ掛かる。
ん?
思いを代償?
でも、それだと?
「ちょっと待ってよ‼️それじゃあ、千夏ちゃんとか、召喚の古い人は帰れないじゃーん‼️」
時が経てば、人は諦めが強くなる。実生活にも振り回されて、今いない人の事など記憶の奥に仕舞ってしまう。
不誠実じゃなく、でないと生きていけないからだ。
「正しいご指摘ありがとう、雨月。」
苦笑いで言った千夏は、されど諦めてはいないようだ。
「だからわたし達は、他を探そうと思う。人の思いに代わる、望めば誰でも元の世界に戻る事が出来る、何かを。」
「具体的には?」
「まだ全く。
ただ、帰るための装置は朔夜達が作るとして、1年くらいかかるから。そこまでに考えるよ、皆の意見を聞きながら。
朔夜にも目標があるし、ね。」
話を振られた朔夜とか言う青年も、
「はい‼️僕は必ず一般的な代償を探しだして、リーシャを向こうに連れて行きます」と、
『マジか⁉️』みたいな主張を堂々とする。
「僕は絶対、この子を神様の玩具にはさせない。」
……
どうやら、真面目も真面目らしい。
千夏が帰れないなら協力する気は無かった。
自分は端から帰る気がないし。
でも、
「わかった。
図書館で調べられるだけ調べてみる」と、結局折れた。
「助かる、雨月。」
「別に千夏ちゃんのためなんかじゃ無いから‼️」
「……ツンデレか?どういう照れ隠し?」
言葉遊びをしながら、考える。
まだ、影すら見えない新たなる代償。
書物で調べるのは絶対だけれど、効率よく謎を解くために必要なのは?
思い付いた。
勇者18号に声を掛けた。
「ねぇ、君?……コウゾウ?だっけ?」
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