第47話 召喚勇者7号 周雨月

 「ああ、もしかして図書館の主か?」


 あの日、魔力感知で見た、強い光を思い出す。


 「そ。知識の虫だよ。」

 答えた千夏は、面倒そうに顔をしかめた。


 どうやら今まで、かなり迷惑をかけられたらしい。

 「知識欲優先、興味優先だから、何をやらかすかわからない。」


 「ひどいなぁ、千夏ちゃん。自分に素直なだけだよ、私は。」

 盛大にため息をつく、千夏の横で手を振って見せる雨月は、確かに30代に見える……が、本人いわく38歳だから、若々しいと言うべきか?

 

 身長は、間違いなくチビの千夏に比べ頭1つ分位高いが、つまり女性の平均だ。

 パッツリのおかっぱみたいな髪型で、前髪だけ長い。隠した?目元から、なかなかに目立つ大きな二重の目が覗いていた。


 知識優先。興味優先。


 なるほど、面白そうに私達を見る目がキラキラ光っている。


 一筋縄では行かない感じ。

 千夏が今1度、ため息をついた。


 「こいつは、わたしの頃は無かった言葉だな、誰に聞いたっけか?えーと、『モフモフ』オタク?」


 ……

 気が抜けるような言葉、出てきた。


 「生き物大好き過ぎて、中国でパンダ、アメリカは?」

 「バイソン‼️」

 「あれはモフモフしてるのか?日本は?」

 「冬毛のライチョウ、最高だね‼️」

 「はあ。

 まあ、そう言う訳で、中国で大学出て、アメリカでまた大学出て、東大に来て、さすがに大学院までいくことになって、で、召喚。

 合ってる?」

 「合ってる🎵合ってる🎵」


 クセが……スゴい……


 「この世界、最高ね‼️見たこと無い、動物たくさん‼️」

 「あれは動物じゃない、魔物だから。」


 気楽にチョキを出す雨月に、千夏が急に気がついたように、言った。


 「そう言えば、ダイジョブなの、雨月?そろそろ商人、来るんじゃない?」

 「おお、ヤバい‼️」


 雨月は近くの木に登り始める。


 いや、勇者が『木に登るな‼️』とは言わないが、せめて私や千夏みたいに『跳べ』や、とは思ったが……


 動きが不器用だ。

 いわゆる『運動音痴』と分かる。


 雨月は樹上からアクア・ドラゴンを俯瞰し……

 「オケ‼️」と、またジタジタ不器用に降りてくる。


 飛び降りない。

 運痴、決定‼️


 「何、今の?スキル?」

 「ああ、あれは。」

 異常行動に答えたのは千夏だった。


 「えーっ‼️ひどい、千夏ちゃん。人のスキル教えるのはマナー違反だよぉ。」

 「マナー皆無が何言ってんだか。」

 「ぶー。」

 「って言うか、あんたのスキル初見殺しじゃないし、知った方が怖いから。」


 雨月のスキルは『完全記憶』。

 彼女はこれを、大好きな動物?にのみ使っているらしい。


 「雨月が召喚されてすぐ、かな?わたし以外の勇者に経験を詰ませたいし、こちらから地竜2頭を討伐に出た事があって。」


 1体目は、雨月と千夏以外のメンツで倒しきった。

 雨月は見ていた。

 「え⁉️ちょっと、周さん⁉️」

 2体目が出てきた途端、真っ直ぐ向かって行ったのは、何故か彼女で。


 「驚いたよ。避ける素振りも無いんだもん。」


 今の千夏が苦笑いする。

 本人いわく、最小限避けたらしいが、地竜の爪による斬撃をかわし、

 「あはは‼️地竜の爪は3本‼️もう見切ったし‼️」

 そのまま首をぶん殴る。

 「でもって、首は少し弱い‼️」


 ……

 「つまり、スキルで相手の完璧な肉体情報と、ついでに弱点ごと手に入れる、と。」

 うわ、えげつない。


 「うん、嫌なヤツだよ、こいつは。」

 「ひっどいなあ、千夏ちゃん。」

 「うるさいなぁ。って言うか、アクア・ドラゴンは?雨月。」

 「うーん、肉体情報はオケ。弱点は、地面に降りた時のバランスが悪いけど……」

 「?」

 「まあ、ここまで上位種だと私達では対応無理でしょ。千夏ちゃんに任せるよ。」

 「わかった。」


 お互いが言いたい放題。

 実は意外と信頼し合っているのかもしれなかった。


 やがて来た商人に、解体後に肉を分けて貰う交渉をする千夏。


 「肉って、食えるの⁉️」

 「ドラゴン肉は美味しいよ。A5の特選和牛なみ。

 それに、」

 「いちごに美味しいって認識させれば、食べ物扱いで召喚し放題でしょ?」

 「ん?召喚と言うより、この世界に生きる個体だし、呼び寄せ、かな?」

 「なお、ラッキーじゃん。呼び寄せられたら、竜種狩り放題。」

 

 ……

 発想が怖いよ、あんたも。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る