第42話 召喚勇者17号 悠木ほむら
「何でぇっ⁉️どういう事ぉ⁉️」
普段より少し遅いタイミングで、運ばれてきた食事に大きな声を出してしまった。
誰も聞く人はいない。
むしろ聞かれても問題ないのに、慌てて自分の口を押さえてキョロキョロする、アタシの名前は悠木ほむら(ゆうきほむら)。
16歳の終わりに召喚されて、今はもう18になる。
アタシは、良くも悪くも『フツー』だった。
成績はフツー、運動もフツー、芸術系の才能は無い。
飛び抜けて可愛いこともなく、見た目もフツー。
コミュ障ではないが、人を惹き付ける魅力も無い。
この言い方は好きではないが、スクールカーストぶっちぎりの中位、可もなく不可もなく、だ。
だから高校も全くフツー、中位の公立高校に進学して、そこでも全くのフツーなまま、ちょっとだけ、怒られない程度に制服を改造したり、仲間とス◯バやマ◯クでお茶したり、それなりに楽しく暮らしていた。
ああ、親との関係もフツー。
共働きで、会話はあまり出来なかったが、フツーに食べ物に困ることもなく、もちろん十分な小遣いもある。
兄弟はいない。
だから、学校に行こうと駅にいたはずが、いきなりこの世界に召喚されて混乱したのだ。
「いやぁ‼なに、ここ‼」
「元の場所に返して‼」
「お父さん‼お母さん‼」
狂ったように叫びまくり、王宮の1室に閉じこもる。
10日ほどして、
「とりあえずこちらへ」と、移されたのが今の家だ。
バス・トイレ付。
3部屋あって、ダイニングキッチンもあったが使っていない。
食事は毎食運ばれてくる。
理想の監禁部屋……と言えれば良かったが、鍵をかけているのはアタシだ。
勝手に召喚するのはいただけないが、彼らはアタシの意思を尊重した。
絶対的にフツー、偏差値50のアタシには、『異世界召喚』なんて似合わない。
勇者?
なにそれ?食べれるの?
冗談じゃない、冗談じゃない、帰る、帰る、帰る……
圧倒的な熱量による否定は、時と共に冷めていく。
頭がどんどん冷静になって、落ち着いてみれば、何をそんなに拘ったのかわからなくなった。
フツーなアタシ。
それがどれほど重要で、何が一体大切だった?
そして本当にフツーだったの?
共働きで会話のない両親は、当人同士も会話がない。
アタシが寝てしまった夜間に帰宅、朝にはすでに会社に行った父親と、起きても来ない母親と。
物にも金にも苦労はしていない。
でも、本当にフツーだった?
友達と上っ面だけの会話。上っ面だけはしゃいで、でも彼女らや両親が、いないアタシを心配する絵すら浮かばない。
冷静に自分を振り返れた時は、逆に引くに引けない状況だった。
引きこもって1年半。
家に付いたバスとトイレは、魔法のある世界ゆえか清掃もいらない。掃除までフルオートの贅沢仕様だ。
魔力使用の洗濯乾燥機、あり。
食事、出てくる。
至れり尽くせりすぎて、文句をつける場所さえない。
文句がなければきっかけがない。
いや、素直に出て行けよと言う突っ込みはわかるが、10代女子は素直になれないのだよ‼
その挙句の果てが今日の夕食だ。
これまで提供されたことはないから、米のない世界だと思っていたのに?
米に、……えっ?サンマ‼
え?別皿に醤油もついてる‼大根おろしも‼
はい?豆腐‼
うわーっ、鰹節にショウガまで‼
なんで一体‼と思った時には、給仕に来た人物は帰っていた。
謎は解けない‼
プチ・パニック、だった。
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