第40話 神に挑む
そんな言い方はしたくないが……
リーシャは気の毒な子だった。
たった6歳で全てを無くした。
目の前で両親を、妹を食い殺されて、あまりのショックに声を無くした。
そんなリーシャが。
今、取り乱す僕のために『声』をあげる。
「サクヤ君‼️」、と。
リーシャはこの1年伏し目がちだった目を見開き、真っ直ぐ僕を見て叫ぶように、言う。
「サクヤ君‼️あたしは幸せだよ‼️」、と。
「あたしはずっと、どうして自分だけ生きてるんだろうって、思ってた‼️
父さんも、母さんも、リリーだって、死んじゃって、なんで自分だけって思ってた‼️
でも、サクヤ君が手を差し伸べてくれて‼️」
リーシャはずっと、話せなかった。
話せないけど、いっぱい伝えたいことがあったのだろう。
まるで叫ぶようだった。
「あたしには魔力とか、聖女とかわからない‼️
でも‼️サクヤ君が優しくしてくれて、ケンスケ君もマサナオ君も大切にしてくれて‼️
ずっとずっと、ありがとうって言いたかった‼️ずっとずっと大好きだった‼️
ずっとずっと……」
最後は涙になった思いが、僕を促す。
僕は、神の、思うようにはならない。
神様は、僕が泣きながら『聖女』としてのリーシャを犠牲にすると期待している。
絶対、絶対、それはしない‼️
「リーシャ‼️」
「リーちゃん‼️」
「リーシャ‼️」
男3人でリーシャを抱き締める姿に、
「アメフトか」と、いちごさんが突っ込んだが……
絶対しない‼️
「お2人にお話します。元の世界への帰り方と、その問題点について。」
簡単に言えば、僕は『勇者返還装置』を作り出せる。
ん?
いいよね?
『召喚』の反対だから、『返還』。
まあ、それはさておき。
僕の『構造把握』は、あっという間に脳内に設計図をひき、必要な素材をまとめあげた。
中にドラゴンの素材も多々あって……
「千夏さんにお任せしていいでしょうか?」
「いいよ。」
ドラゴンともなると、ただの勇者では役不足で、勇者プラスの力が必要となる。
僕も勇者プラスだが、圧倒的に場数が足りない。
引き受けて貰えて良かった。
「地竜でもいいの?」
「いや、出来たら飛ぶのを。」
「赤竜より上ね。期限は?」
「大きな構造物は、いくらスキルを使っても時間がかかります。
半年くらい先で大丈夫です。」
「わかった。」
建材として必要な石や木材は、僕らでゆっくり集めよう。
焦らず、着実に。
そして目処がたったようなら、次の……いや、最大の問題がこれだった。
「召喚は等価交換、ってわかりますか?」
王宮魔導師10人の魔力、一般人100人の魔力、魔石の魔力……
捧げられた物と等価交換されたのが勇者だった。
『返還』でもそれは同じで……
「向こう側から、代償が必要ってこと?」
千夏さんが聞いた。
「そうです。僕の頭に今あるのは、『思い』ですね。」
いなくなった子供を探す親の思い、兄弟姉妹を慕う思い、友人を、恋人を求める思いなど、だ。
「これだと召喚が最近の人に有利で、家族に空気扱いの僕や、召喚が古い人に可能性はありません。
更に、チャンスは1回だけ、失敗したらやり直せません。」
「ん?どうゆーこと?」
不思議そうないちごさんと、
「ああ、大福の実験か。」
話が早い千夏さん。
さすが初代勇者だ。
16号と17号の間に、
「100人で勇者1人と思っていたけど、実際90人ならどうなるの?」と、王様が言い出したのだ。
で、実際やって、失敗‼️
90人の魔力だけ吸い込み、誰も召喚されなかった。
「失敗すれば『思い』だけが消え、帰れません。相手が『思い』では、追加なんてききませんから。」
「って言うか、饅頭、何やってんの?」
「あー、大福は思いつきで、興味本位の人だから。」
「子供なんですよ。」
18歳に『子供』と言われる『大人』って。
「でも、僕は諦めません‼️」
今はもう迷わない。絶対に成し遂げる。
「この世界は意外と融通がきくと言うか、王宮魔導師10人を一般人100人に置き換えられるとか、更にそれを魔石で代替え出来るとか、ある意味なんでもあり、なんです。」
「ああ。」
「確かに。」
「だから僕は、『思い』に代わる代償を探します。
システムが出来るまでに半年以上……もしかして1年くらいかかるから、必ず誰でも使える、望めば帰ることが出来る方法を探します。
で、僕はリーシャをこの世界から連れて行きます。」
リーシャを決して『聖女』にはしない。
「あちらに行けば、『聖女』とか関係なくなる。絶対リーシャを『聖女』にはしません‼️」
僕の決意に、初め驚いた顔だった始まりと終わりの勇者が、ニカッと笑って……
そして同じ日の夜、王宮の片隅にある小さな建物で、激しい悲鳴があがるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます